写真/沼田学(『築地魚河岸ブルース』から)
写真/沼田学(『築地魚河岸ブルース』から)
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 10月6日に閉場する「築地市場」。名残惜しさも相まって、市場内は観光客で連日ごった返している。その築地で働く男を撮影してきた写真家は、「顔や外見から浮き立つ何かを感じてもらいたい」と語る。その真意とは。

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 東京・築地市場。現場に目を向けると、日々の仕事を黙々とこなす人々の姿がある。

「初めてターレーに乗ったおじさんを見たとき、なんて荒っぽくてかっこいいんだ!と思ったんです。映画『マッドマックス 怒りのデス・ロード』を観た直後で、荒廃した世界で改造車を乗り回すシーンとも重なって(笑)」

 そう話すのは写真家の沼田学さん。特殊な撮影方法で撮る白目の人物や、歌舞伎町のホストなどのポートレートを撮り続けている。

 沼田さんが友人の案内で築地市場を訪れたのは2016年5月のこと。市場の雑多な風景や、そこを行き交う人々はフォトジェニックではあったものの、そのような写真は既視感があり、同じものを自分が撮っても意味がないと思った。

 そのとき、特に魅力を感じたのが、築地で働く男たちの「顔」と、ターレーだった。

写真/沼田学(『築地魚河岸ブルース』から)
写真/沼田学(『築地魚河岸ブルース』から)

「顔にシワが刻み込まれていてかっこいいので、“野生動物”をハンティングするように、そのままの姿をきっちり撮るにはどうすればいいか考えました」

 築地場内の撮影は許可制で審査が厳しく、許可を取るのは困難だ。沼田さんはまず、約1カ月半は場内をぶらぶら歩きながら、撮影ポイントを探し、撮り方を考えた。そこで撮影が禁じられていない場外から場内を狙うことができ、ターレーに乗った人が行き交う場所を見つけ出した。

「背景がシンプルで他の人が写らず、一人にフォーカスできる場所があったんです」

 場所を定めた沼田さんは、ほぼ毎朝9時ごろに現場に赴き、10時過ぎまで撮り続けた。

「よく駅前で毎日演説している政治家がいて、みんな存在は知っていてもあまり気にしませんよね。僕も毎日通い続けて、風景のような存在になりたいと考えました」

 望遠レンズをつけたカメラを持って道の片隅にしゃがみ、ターレーが来たらシャッターを切る。それはまさに狩りのよう。通り過ぎる一瞬に不意打ちのようにストロボを光らせて撮るため、怒鳴られることもあったという。

「一度、おじさんにつばを吐かれたこともあったんですけど、その瞬間がかっこよかったから、もう一度吐いてくれないかなと思いました(笑)」

 沼田さんは撮りためた写真を濡れてもいいようにラミネート加工し、ターレーに書かれた屋号を頼りに、本人に渡すことにした。

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被写体本人に写真を渡す