品田:上田さんは「なりたい」ロールモデルはありました?
上田:漫画家になりたかった! 大学4年のときに「おかしい、漫画家になれていない」と気がついて、あわてて編集部に持ち込みをはじめたんですが、結局描けなくて、編集者になりました。編集の仕事を10年やったころに、あのころの自分には中身がなかったんだ、と気がつきました。
■「仮面」のメッセージ
上田:僕がね、「ダ・ヴィンチ・恐山(品田遊)論」を書くとしたら、タイトルに「クラスに仮面の子がいたら」ってつけます。僕は品田さんが、世の中にこの姿でいるっていうことがすごいメッセージになっていると思うんです。オバケのQ太郎とか「うる星やつら」のラムちゃんみたいな、どう見ても「ちょっと違う人」がいるという状態を作っている。
品田:なるほど。
上田:男性って基本、男だけで構成された「猿山」で生きてるじゃないですか? 優劣とか上下とか、何者かにならなきゃいけないっていうプレッシャーがあったりして。でも品田さんは、本来「仮面」をつけて人前に出てしまうほどおずおずとした人が、当たり前のように、そこにい続けることで「仮面の子がいてもいい」「猿山がありそうにない」世界を作り出している。なんでそれが可能かといえば、「おもしろ」の能力があるから。おもしろさが人を自由にする世界を作っている。新刊に書かれている、面白い断片に満ちた日々、「マリオカートの相手さえ見つかれば、今日はいいじゃん」と思えるような日常というのは、そういう世界なんだと思います。
品田:自分は一生おずおずと、生きていくだろうなと思っていますが、でも決まった型に向かって「いくぞ!」って乗り切れない人は無数にいると思うんです。そういう人に「そういう人ばかりじゃないよ」っていうことが示せたら、数少ない私の社会貢献になるかもしれません。
上田:それは、超いいことですよ。
品田:あ~、非常に心が軽くなったというか、カウンセリングをしていただいたみたいです。ありがとうございました(笑)。
(構成/フリーランス記者・中村千晶)
※AERA 2022年12月26日号