しかし、韓国では労組を中心に、北朝鮮の影響力がかなり及んでいるというのが定説であり、国家権力機関の改編は、かえって北朝鮮の影響力を強めかねないとの懸念もある。

●文大統領を批判することに慎重にならざるを得ない雰囲気

 一方、北朝鮮との交渉に関しても懸念されている。

 北朝鮮の金正恩労働党委員長との首脳会談が間近に迫り、文大統領はますます “前のめり”姿勢になっている。だが、李元大統領まで逮捕されたとなると、韓国国内では、文大統領を批判することに対し慎重にならざるを得ない空気になっている。

 主要マスコミは、対話を行うこと自体については総論賛成だ。ただ、北朝鮮の核ミサイル放棄に対しては懐疑的な見方をしており、今のところ、その交渉の進め方については慎重な対応を求めている。

 ただ、韓国の大統領は日本の首相とは違い、国会で叩かれることはない。そこでマスコミも批判を自重するとなれば、大統領をけん制する勢力はなくなる。

 李元大統領の逮捕が、金正恩委員長との首脳会談前に行われたことについて、国内の反対を封じようという意図があるのか否かは分からない。しかし、影響があることだけは否定できないだろう。 (元在韓国特命全権大使 武藤正敏)

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