司馬遼太郎の幕末・維新を題材にした作品にどのような思想が通底しているかを解き明かした一冊だ。司馬が何を描いたかでなく、何を意識的に描かなかったかを浮きぼりにすることで、司馬の歴史観を再検証する。

 著者は本書を「司馬遼太郎は『尊王攘夷』か」というようなタイトルに当初はしたかったとか。司馬が吉田松陰を愛し、井伊直弼をこき下ろしているところから、合理主義者の司馬がなぜ攘夷に肩入れしたかに迫る。明治維新はそもそも尊王攘夷の革命だったのか、という投げかけは興味深い。

 司馬の作品以外にも多くの文献を参照しており、幕末・維新の複雑な人間関係や、交錯する思惑を整理している。司馬ファンはもちろん、小説に触れたことがなくても楽しめる構成になっている。

週刊朝日  2018年3月16日号