麻薬カルテルと聞けば暴力を武器に勢力を拡大している印象があるかもしれない。だが、組織のボスへの取材や経済学的視点で麻薬ビジネスを分析した本書を読むと彼らの行動原理に驚かされる。

 麻薬密売の世界は徹底的に合理性を追求するという。無駄に抗争せずに、必要とあれば商売敵とも手を結ぶ。密入国などの他の違法ビジネスはもちろん、野菜の栽培なども手がけ、事業の多角化に余念がない。メディアを使って情報を発信するし、慈善活動にも寄付する。成功している組織は世界的な大企業と重なる部分が多い。

 著者は組織の内情を暴き、取り締まり手法を改めるべきと投げかける。無法者ではなく、したたかな企業経営者と対峙する姿勢がなければ麻薬カルテルの経営は揺るがないとの指摘はもっともだ。

週刊朝日  2018年3月2日号