●沿線郊外の未来を変えるターミナル開発
一方、その東急が「脅威」という、今年3月に迫った複々線化により「東急や京王ユーザーのシフトも含め、乗降客数を年3000万~4000万人増やす」(小田急電鉄の田島禎之・生活創造事業本部開発推進部課長)と鼻息が荒い小田急。同社の肝いりは、南町田から南西約10kmに位置する「海老名」(神奈川県海老名市)だ。
これまでも駅東口で商業施設などの開発を進めてきたが、用地買収から半世紀越しの「再開発ではなく最初の開発」(田島課長)となるのが、25年度の完成を目指す、JRの海老名駅との駅間地区に整備される「ビナガーデンズ」だ。東急の「二子玉川ライズ」と設計会社が同じで、見た目はニコタマ、中身はムサコ(武蔵小杉)のような建物になるという。
中でも他社が「かなり挑戦的」と半ばあきれつつ称賛するのが、オフィスビルの建設。「できれば、旅客増につながる沿線外から企業を誘致する」(同)腹積もりだ。
これまで再開発で後塵を拝してきた西武鉄道は、各主要駅で巻き返しを図る。例えば、池袋線「石神井公園」は東急の「自由が丘」のようなおしゃれな高級住宅街を、池袋線「飯能」は北欧のフィンランドを、秩父線「西武秩父」は箱根を想起するような開発を行う。
片や、京王は現在、「調布」や「府中」で再開発を仕掛けているが、今後は街の整備よりも「運賃の値下げ、通勤ライナーの投入、ダイヤ改正といったソフトの充実にシフトする」(南取締役)。
沿線全体の将来を占う上で、個々の駅よりも重要になるのが、接続するターミナル駅の趨勢だ。
「心臓部であるターミナルが衰えると沿線も動脈硬化を起こす」と各私鉄幹部は口をそろえる。
副都心の3駅のターミナル駅再開発で頭一つ抜けているのが、東急が威信を懸けて100年に1度の規模で再開発を行う「渋谷」。27年度の完成に向け、七つのプロジェクトが進行中で全く新しいオフィス街が誕生する。逆に、渋谷のみならず「池袋」にも後れを取っているのが「新宿」。南取締役は「小田急にも同じ危機感があり、『連合軍』の意識で一緒に進めている」と話す。首都圏でも沿線人口の争奪戦は始まったばかりだ。