「そんな馬鹿な」と叫びたくなるタイトルだ。水は石油に変わるわけがないのだが、第2次世界大戦が始まる直前、海軍の中枢をも巻き込み、幾度も実験が繰り返されていたというから驚きだ。

 騒動の中心にいたのは、かつて「藁から真綿をつくる」と豪語して世を騒がせた稀代の詐欺師。こうした前歴を知りながらも、大学教授から実業家、当時の海軍次官の山本五十六まで、「もしかしたら」と惹きつけられていく。それぞれの思惑が交錯しながら、詐欺師が科学者のように扱われていくさまは、人間の欲望の深さを物語っていて興味深い。

 読み終えると、当時の日本人の科学に対する知見の欠如を笑えなくなる。後世からみれば「ありえない」非科学的な事象を、現代人の多くが盲信していることは決して珍しくないのだから。

週刊朝日  2017年10月6日号