そうこうするうちに、次は小劇場と出合う。
「ハイバイの岩井(秀人)さんの舞台で、前説かと思ってたらそのまますっとお芝居が始まったりするような体験をしたとき、距離の近さに心を奪われました。声と言葉のチョイスで、100人とか200人の人たちを、一つの世界に引き寄せられるなんてすごいなって」
大学を卒業する少し前から、本格的に芸能の道に進むが、最初の数年は、俳優の仕事だけでは食べていけなかった。映画の舞台挨拶が終わった後に、飲食店のアルバイトに行くと、一緒に働いていた外国人に、瀧内さんの会見のネットニュースを見ながら「出てるよ、すごいね」と言われたことも。
「何時間か前までは、舞台上でたくさんのフラッシュを浴びていたのに、夜は配膳とか、皿洗いに必死になっていた。そのときに思ったんです。私がキラキラした現場にいたことは確かだけど、俳優をやる上で、本当の価値は自分で探さなければいけないんだって。自分の大事なものは自分で見極めないとダメだって実感したし、チームでものを作っていく上で、いろんな意見が飛び交うのは当然だけれど、『私はこれが大切だと思う』っていうものは、ちゃんと持っていよう、と」
自分の中に、確固たる「芯」を持てるようになったのは、ある映画監督との出会いもきっかけになった。2017年に公開された映画「彼女の人生は間違いじゃない」で、瀧内さんは主人公のみゆきを演じたが、そのとき廣木隆一監督に、とことんしごかれたという。
「監督からは、『自分が感じたことをそのまましゃべればよくて、言葉が出るまで別にセリフを言わなくてもいい』『カメラに向かって芝居をするな。大切なのは、“演じる”ことじゃなくて、“演じない”ってことだよ』『演技がうまいなんて言われたら終わりだなと思いなさい。うまい下手で評されるのではなく、役としてその場にいなさい』とか、いろんなことを教えてもらいました。監督の小説を映画化していて、ドキュメンタリーのような撮り方だったり、説明のト書きもすごく少なくて。『あなたの“生きる”とは何ですか?』と問われているような感覚でした」
追い込まれて、瀧内さんは7キロも痩せた。でも、その作品との出合いが自分の感性を目覚めさせてくれたと、今は自信を持って言える。
(菊地陽子、構成/長沢明)
※記事の後編はこちら>>「瀧内公美『自分のお芝居に飽きていた』 苦手な“音”を鍛える今」
※週刊朝日 2023年5月5-12日合併号