円安や中国の関税強化を原因に急失速する“爆買い”、この急変が直撃するのは、免税店大手のラオックスだ。2015年4月に3万9000円を超えた平均顧客単価は、2016年第4四半期には2万円を割り込み、過去2年で最低の水準となった。

 昨年の春節、ラオックス銀座店の1階フロアでは、1億3000万円の赤サンゴをはじめ、豪華な宝飾品が展示されていたが、今年そのフロアに現れたのは“ドラッグストア的品揃え”の商品群だった。2階には高級時計や南部鉄器が陳列されているが、これに見入る客は決して多くはない。爆買いの影響で価格が急騰した南部鉄器も、ついにそのブームが終わったようだ。

●モノ消費からコト消費へ 訪日の客層が変わる

 こうした変化について日本の専門家たちは「モノ消費からコト消費への推移だ」とコメントする。中国人客の訪問先は、東京や大阪などの「大消費地」から地方都市へと変化し、その内容も日本の伝統文化体験など知的好奇心をくすぐる商品にシフトしているという。

 その一方で注目したいのが「客層の変化」だ。「買い控えは客層の変化によるものでは」という声もあり、筆者もこれを実感している。ここでこんなエピソードを紹介したい。
 昨年12月初旬、春節シーズンを前に上海の友人の郭(仮名)夫妻がクルーズ船で日本を訪れた。上海-博多-釜山をめぐる4泊5日の船旅である。年金生活を送る「切り詰め型」の郭夫妻の台所事情を知る筆者からすると、ずいぶん思い切った決断のようにも思えた。
 そこで、どういった経緯でこのツアーに参加したのかと尋ねてみた。

「参加費が激安だったのよ。ツアー料金は4泊5日で一人2000元(約3万2000円)。この予算で2ヵ国も回れるのだからお値打ちでしょう!」

 このツアーは、郭さんが住む町内で募集がかけられた商品だった。郭さんは上海市内から西に延びる高速道路沿いの庶民向け集合住宅に住んでいる。このツアーは言ってみれば、「町内会の慰安旅行」のような感じで、郭さんの話からは、同じような生活レベルの世帯、同じような年齢の参加者が集まったことが伺える。

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