第4話の場面から©テレビ朝日
第4話の場面から©テレビ朝日

 それよりも視線を向けるべきは、寛の弟でネルラとレオ(板垣李光人)の叔父・考(岡部たかし)ではないか。本編において、彼が結婚をしなかった理由は、母を亡くしたネルラやレオの面倒をみるため、と言及したシーンがあるが、本当にそれだけが独身でいる理由なのか。家族という閉ざされた枠のなかに、もうひとつの影が潜んでいるのかもしれない。

 4話では、寛に不倫疑惑も持ち上がる。一見、15年前の事件とは無関係に見える案件だが、ここには「惚れた女性を盲目的に信じる男」という構図がある。

 騙す者と騙される者、嘘をつく者と嘘と知っていて信じる者。これはネルラと幸太郎の夫婦関係にも通じるテーマだ。真実を見ようとしない優しさと、あえて隠す冷たさ。そのせめぎ合いが、物語の緊張感をさらに高めている。

 さらに想像を広げれば、布勢夕人がネルラに何らかの裏切り行為を働いていた可能性にも思い至る。浮気か不倫か、横領か……。もしかすると布勢は既婚者で、その事実を隠してネルラと交際していたのかもしれない。寛の不倫疑惑が唐突に差し込まれた背景には、この“二重写し”の構造が隠れているのではないか。

自画像が放つ“監視”と“覚悟”のメッセージ

 さらに印象的だったのは、ネルラが描き、部屋の壁に貼った彼女自身の自画像だ。

 これは、自分自身と向き合い、問題解決から逃げないという意思表示とも取れるし、反対に「私はどこからでもあなたを見ている」という警告にも見える。幸太郎がその絵を見て息を飲む場面は、視聴者にも不気味な余韻を残す。

 自画像は“静止した存在”だが、そこには時間や距離を超えて他者に干渉する力がある。夫婦の距離を置いた生活のなかで、なおネルラの存在を強烈に感じさせるこのモチーフは、今後の展開でふたたび重要な意味を持つだろう。

 第4話は、夫婦間の距離、家族内の疑惑、そして15年前の事件の影が、同時多発的に膨らむ回だった。早すぎる真相提示が視聴者を惑わせ、同時に「まだ別の真実がある」という予感を抱かせる。

 この先、幸太郎とネルラはふたたび向き合えるのか、それとも完全に決裂してしまうのか。答えはまだ遠い。しかし、壁に貼られたネルラの自画像がこちらを見つめ続ける限り、視聴者もこの物語の真実を探り続けるしかない。

(北村有)

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