
ファンたちは、白と黒といったシンプルな造形のジャイアントパンダ(以下、パンダ)をどこで見分けているのか。日本パンダ保護協会の会員たちを対象にしたヒアリング調査から見えてきたものとは――。
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多くの場合、見分けようとする最初の動機は、パンダに対する非常に強烈な興味であり、特に特定の個体に対する愛着ともいえる関心である。したがって、対象となる特定の個体を長期間(数週間以上)にわたって着目し続ける(見続ける)過程を通して、気がつかないうちに個体を覚えることになる。
また、対象となるパンダの数が10頭と限られることもあって、2個体以上を同時に行うことも可能となっている。最初および次の段階に特定の部位ではなく、体全体に着眼し続けて見分けが可能とする者もいるが、これも調査対象の個体数が少ないことに起因すると考えられる。こうして、覚えた個体の特徴などによって、他の個体との差異を容易に見つけ出せると推測される。
見分けに際して最初に着眼する部位は、顔と体とに大きく分けることができる。顔にはアイパッチや鼻などを、体には行動や仕草などを含めているが、比較的、顔に着眼することが多い。次の着眼部位では、顔とした者は顔の他の部位を挙げる傾向があり、体とした者は次に顔を挙げる傾向がある。このことから、多くの場合、初期の時期は顔が見分けにおける着眼の中心的な位置を占めていると考えられる。
一方、設問「2個体がいる場合、どこに着目して違いを見極めますか」については、体に関係する部位を挙げる率が最初の着眼点に比べて高くなっている。さらに、第三者にパンダの特徴を教える際、複数の部位を挙げる者が大半だが、一部で仕草など個体に対する印象を挙げる者も見られる。こうしたことから、見慣れてくると全体の雰囲気などからも見分けられるようになると推測できる。
「見分けのポイント」のヒアリングにおいて、通時的にパンダの顔が変化しているという指摘が数多くなされた(例「当初、野生らしさが見られたのが、だんだん野生らしさが失われて『洗練』されていった」等)。写真を見ての評価であるため、撮影法やトリミングの仕方の時代的な好みの影響なども考慮する必要があるが、変化が飼育下の状況が長く続いてきた結果の可能性であることは否定できない。ファンによる通時的な変化の読み取りの前提には、見続ける営為が必要と考えられる。さらに、変化を表す表現から推測するに、一定の擬人化がなされているのだろう。