
各界の著名人が気になる本を紹介する連載「読まずにはいられない」。今回はプロインタビュアー・吉田豪さんが、『男の!ダメすぎメモリーズ』(掟ポルシェ著)を取り上げる。AERA 2025年7月14日号より。
【写真】おもしろおかしく振り返る 掟ポルシェの自叙伝的エッセイ
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音楽よりも、なぜか文章の仕事のほうが多そうなロマンポルシェ。というミュージシャン2人組がいる。とくにロマン優光はサブカルから政治までの複雑な話を整理して文章化する能力が高く評価されがちなんだが、文章が上手いのは掟ポルシェのほう。それなのにあまり評価されないのは、致命的に中身が空っぽだからだと思われる。言いたいことは何もないが、ひたすら屁理屈をこねたりボケたりを繰り返して無理矢理ページを埋めるのを得意とする男なので、たまに読み応えのあるいい本を出しても気付かれないことが多そうなので言っておく。これは中身がちゃんとあるほうの本なので安心して!
彼の周りに集まる、ロマン優光を筆頭にどうかした人間について書いた、この本。彼の〈父親からして重度のアルコール依存症で、家にいる間暗い顔で酒飲んでるか酔い潰れてソファーで死んだように寝ているかの2択〉であり、〈悲嘆に暮れたところでどうにもならないわけで、客観的に見れば悲惨な状況ほど「おんもしれえなぁ~」と苦笑いすることで乗り切ろうと〉した結果、そういう人たちがどんどん引き寄せられてきて、そしてそれが全て原稿のネタにもなったってことなのだ。

〈身内というやつはなんて面倒な生き物なのだろう? その人物の面白エピソードを著書の中で、多少の事実にウソをガッツリまぶしていい感じに膨らましチャチャッと書き散らしただけで、後日俺の胸ぐらを強い握力で掴みありったけの巻き舌で文句を言ってくるわ、場合によっては絶縁を仄(ほの)めかされるわ、大仰で深刻で如何ともし難い。「そ、それは……愛情の裏返しだよ」とかいちいち言うのは野暮だと思わないのだろうか。彼等はわかっていない。俺が身の回りの誰かの異常行動をボロクソ修辞で酷描写したとき、その才能がもっとも光り輝くということを……!〉
そんな男の才能が存分に発揮された本だから、〈ちゃんとしてないエピソードしか出てこないので、正義感が強く他人の間違った行いを正したいタイプの人は読んじゃダメ〉なのでホント気を付けて!
※AERA 2025年7月14日号
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