2007年夏にインターネット上で見知らぬ男3人が知り合い、31歳の女性を無計画に拉致し、命を奪った「名古屋闇サイト殺人事件」。
 事件について加害者の視点から書かれたものはあったが、本書は被害者の視点から問い直す。鉄のハンマーで40回も顔面や頭部を殴られながら、必死に生きようとした彼女は何を思ったのか。刃物を突きつけられながら、キャッシュカードの暗証番号を吐かない強さをなぜ持てたのか。彼女の生い立ちから丹念に追うことで、死の恐怖に晒されながらも、自分を貫き、犯人に必死に抵抗し続けた理由が理解できてくる。
 被害者視点に立つことで見えてくるものもある。マスコミは無神経な報道に終始し、裁判では永山基準が重くのしかかる。被害者に事件の終わりがないことを本書は改めて突きつける。 (栗下直也)

週刊朝日 2017年1月20日号