日本では2026年度から私立高校も含め所得制限なく授業料の実質無償化が予定されており、高等教育の裾野を広げていこうとする潮流がありますが、他国ではどうなのでしょうか。オーストリアでは公立であれば大学まで学費無償とのこと。20年近くウィーンで暮らしているライターの御影実さんが、自身の子育てを通して見えてきたオーストリアの教育費事情をレポートします。※後編<大学まで公教育無償のオーストリア…でも“いいこと”だけではなかった! 親に求められる「無償の代償」とは>に続く

MENU オーストリアの学費と子どもにかかる費用 「子どもがいるほうがお得」な社会システム

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 ヨーロッパでは学費がかからない国もある、という話をよく耳にしますが、実際のところどうなのでしょうか? 筆者が暮らすオーストリアも「大学まで学費無償」の国ですが、実際この国で10年以上子どもを育ててみると、そのメリット、デメリット両面が見えてきます。

 今回は、オーストリアの教育費事情と、意外な問題点、そして日本とは少し異なる教育に対する考え方についてご紹介します。

オーストリアの学費と子どもにかかる費用

 オーストリアで公立の学校に通えば、誰でも授業料を納めずに大学まで進学することができます。親の収入や子どもの数などの制限や条件もありません。

 学費無償制度は、親にとって、子どもの進学資金の心配が不要という面でとても心強い制度ですし、子どもが3、4人いても大学まで出してやれるだろうという気持ちの余裕は、少子化対策にもつながります。

 学費無償は公立に限るので、私立校には授業料がかかりますが、そもそもオーストリアの公立の教育機関の割合は、小中学校が約95%、高校や専門学校が約75%、大学では約95%となっていて、ほとんどの人が公立の学校に通います。

 公立より私立が好まれるということもなく、バイリンガル校や音楽、芸術、スポーツに重点をおいた学校など、公立校にも選択肢が多いのも特徴で、公立校の教育レベルはヨーロッパ内でも高いとされています。筆者の周りでも、近くの公立校が合わない、言語面でのサポートが必要、英語やドイツ語以外の言語で教育を受けさせたい、などの事情がない限り、公立校に行くことが一般的です。

オーストリアの公立校の教室。1クラス25人程度です
オーストリアの公立校の教室。1クラス25人程度です
公立のバイリンガル校にて、小学校4年生のSGDsに関する英語のポスター展示
公立のバイリンガル校にて、小学校4年生のSGDsに関する英語のポスター展示
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御影実
オーストリア・ウィーン在住ライター・ジャーナリスト 御影実

2004年よりオーストリア・ウィーン在住。国際機関勤務を経て、2011年より輸出輸入業の傍ら、オーストリアの社会、歴史、文化、時事関連の寄稿や監修、ラジオ出演や取材協力を行う。掲載媒体は、「サライ.jp」(小学館)、『るるぶ』(JTBパブリッシング)、『ハプスブルク事典』(丸善出版)等。中学生、小学生、幼稚園児の3児のバイリンガル育児中。世界 100 カ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」会員。

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