学費無償とはいっても、日本と同じく学用品や校外学習、合宿などの実費は各家庭が負担しますし、学童保育も有料ですので、教育費は完全にゼロというわけにはいきません。それでも、制服や部活がないので、日本より学校関連の出費は少ないと言えるでしょう。何より、受験や塾がないので、塾代がかからないのは助かります。

 学費無償に加えオーストリアでは、家族手当が大学卒業(上限24歳)、もしくは独り立ちするまで支給されます。子ども一人あたり138~200ユーロ/月(約22,700円~33,000円/月)で、日本とは逆に、年齢が上がるほど増額するほか、学用品購入のための新学期特別手当もあります。さらに年少扶養控除は、18歳以下の子ども一人当たり年間2,000ユーロ(約33万円)。学費以外の家庭の負担を見越して、制度が整っていることを感じます。

 他にも、高校生までウィーンの博物館のほとんどは入場無料ですし、長期休暇や日曜日は、15歳まで市内の交通費も無料。夏休みに小中学生3人をウィーン自然史博物館に連れて行ったときは、出費が大人一人の交通費と入場料だけで驚きました。子連れのお出かけの時には特に、子どもにかかる費用が可能な限り削られていることを、身をもって感じます。

ハプスブルク家の所蔵品を展示したウィーン自然史博物館は、19歳まで入館無料で、子どもや若者の学びの場として最適だ
ハプスブルク家の所蔵品を展示したウィーン自然史博物館は、19歳まで入館無料で、子どもや若者の学びの場として最適だ

「子どもがいるほうがお得」な社会システム

 大学まで学費が無償で、手当や控除も充実しているなんて、そんなおいしい話があるわけがない、と思われるかもしれませんが、もちろんオーストリアの納税者の負担も少なくありません。

 財務省が発表した2022年度のデータによると、オーストリアは日本と比べて国民の租税負担率が41.3%と高く(日本は29.4%)、OECD加盟国36カ国中3位(日本は24位) です(財務省ホームページ「国民負担率の国際比較(OECD加盟36カ国)」参照)。国民にも税負担が大きいという自覚が強く、「独身時代には税金を取られるばかりだったのが、子どもが生まれて初めて税金の恩恵を実感する。税金を納めてきた意味がよく分かったよ」という声が、周りの育児世代からもよく聞こえてきます。逆に子どもがいない高所得者は、「子どもがいる人が、手当や補助金、控除などで得をするようにでてきている社会だ。子どもがいないと、それだけで損してる気がするな」などとぼやいたりもしています。

 オーストリアで子育てしていると、育児や教育に潤沢に予算が割り当てられていて、ことあるごとに「国や社会全体で次世代を育てる社会システム」が意識的に作られていると感じます。

後編<大学まで公教育無償のオーストリア…でも“いいこと”だけではなかった! 親に求められる「無償の代償」とは>に続く

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御影実
オーストリア・ウィーン在住ライター・ジャーナリスト 御影実

2004年よりオーストリア・ウィーン在住。国際機関勤務を経て、2011年より輸出輸入業の傍ら、オーストリアの社会、歴史、文化、時事関連の寄稿や監修、ラジオ出演や取材協力を行う。掲載媒体は、「サライ.jp」(小学館)、『るるぶ』(JTBパブリッシング)、『ハプスブルク事典』(丸善出版)等。中学生、小学生、幼稚園児の3児のバイリンガル育児中。世界 100 カ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」会員。

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