たうち・まなぶ◆1978年生まれ。ゴールドマン・サックス証券を経て社会的金融教育家として講演や執筆活動を行う。著書に『きみのお金は誰のため』、高校の社会科教科書『公共』(共著)など
たうち・まなぶ◆1978年生まれ。ゴールドマン・サックス証券を経て社会的金融教育家として講演や執筆活動を行う。著書に『きみのお金は誰のため』、高校の社会科教科書『公共』(共著)など

 最近ではAIの力を借りてESを書いている学生が増えているという。マイナビが行った調査によると就活でAIを使ったことが「ある」という学生は66.6%と前年に比べて実に30ポイント近く上昇した。その主な利用方法は「ESの推敲」だそうだ。

 文章を書くのにAIを使うこと自体は問題ないと思う。問題は別のところにあるだろう。そもそも求めているのは「会社で一緒に働ける能力」のはずなのに、それとは関係ない「面接担当者を文章で惹きつける能力」で選考していることだ。

 就活(企業側からすれば採用活動)とは、企業と学生のお見合いのようなものだ。お互いが本音で語った方が、長期的に見れば幸せな関係が築けるはずだ。

 しかし、現実はなかなかそうならない。新卒で正社員として就職すれば安泰という終身雇用制度がある限り、「就活さえうまくいけば」という意識が生まれてしまうからだ。実際、新卒で入社した人の約3割は3年以内に退職している。

 いっそのこと、新卒採用を最初の3年契約にして、その間の働きぶりを見て継続雇用を決める方式にしたほうが、企業にとっても学生にとっても公平で理にかなっているのではないだろうか。

「終身雇用で安心して働ける社会」は理想的に聞こえるが、実際には就活中の短期間で良い顔を見せられた人が恩恵を受け、既得権益化してしまう社会になってはいないか。

 企業側もAIを使って、自分の会社にふさわしい学生を見つけようとしているらしいが、それよりも雇用制度を見直したほうがいいのではないだろうか。

AERA 2025年6月30日号

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