AERA 2025年6月30日号より
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 物価高や円安、金利など、刻々と変わる私たちの経済環境。この連載では、お金に縛られすぎず、日々の暮らしの“味方”になれるような、経済の新たな“見方”を示します。 AERA 2025年6月30日号より。

【画像】今週の田内さんの「数字を読む」は、何の数字?

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“サハラマラソンを完走した唯一人の学生です”

 会社員時代に採用活動をしているとき、この強烈な一文に出合った。僕自身、就職活動では苦労した経験があるから、エントリーシート(ES)に必死で個性を出そうとする学生たちの気持ちはよくわかる。

 当時所属していた部署には、毎年約1千人もの応募があり、5人で手分けして200枚ずつESを読む作業をしていた。学歴やテストの点数のほか、「ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)」という自由作文欄があり、ここに学生たちの個性が表れる。

「サハラマラソン」とは、モロッコの砂漠約250キロを7日間で走破する、世界一過酷なマラソンレースとされている。

 その珍しい経験と根性に興味を持ち、ESを「面接に進めたい」側の山に置いた。ところが読み進めるうちに、再びサハラマラソンを完走した学生を見つけた。名前や大学はまったく異なる別人だ。

 不思議に思って翌日、同僚にこの話をしたところ、「うちにもサハラマラソンを完走したという学生がいた」と言う。調べてみると、驚くことにその年の応募者には5人もの「唯一人の学生の完走者」が存在していたのだ。

 しかも、書かれていた内容はほぼ同じ文章だった。どうやらインターネット上に「通過したガクチカ例文」が掲載されていて、それを丸ごとコピーしていたらしい。

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