子どものころ、大人は立派だと思っていた。自信たっぷりで、怖いものなさそうで。ところが自分が中高年になってみてわかった。ほんとうの中高年は、不安と後悔と嫉妬と怒りでいっぱいなのだ。
 小池龍之介『おじさん仏教』は、若い僧侶が悩める中高年男性に助言する本である。第一部で「おじさん」の具体的な悩みに答え、第二部で仏教理論と悩みの関係を解説する。第三部には蛭子能収との対談を収録。
 第一部のお悩み相談がリアルだ。「誰からも評価されていない」と嘆くOA機器会社の50歳。起業して成功した元同僚に嫉妬するIT会社の45歳。妻が大切にしてくれない、家庭での地位はペット以下だとぼやく地方公務員51歳。新橋あたりの居酒屋で、隣のテーブルから聞こえてきそう。
 こうした悩みに対して著者は、自分が置かれている状況を直視して相対化する方法をユーモラスに説く。煩悩にどっぷり漬かっているからつらいのである。
 ストレスの元は煩悩だ。主要な煩悩は「欲」「怒り」「無知」の三つ。さらに欲の一種として「見」と「慢」。無知とは感覚のセンサーが鈍く、目の前の現実に興味をもたなくなること。いま・ここに集中すれば、煩悩を振り払うことだってできそう。坐禅なんて組めそうにないけれども、つらいとき「これは煩悩だ」と思えば楽になる。仏教は意外と役に立つ。
 異色の僧侶として知られる著者は78年生まれ。38歳の若造ならぬ若僧にオレの何がわかるか、と反発するおじさんもいるかもしれない。でも、酒を飲んで暴れたり薬に頼るより、まず一読を。

週刊朝日 2016年12月30日号