たうち・まなぶ◆1978年生まれ。ゴールドマン・サックス証券を経て社会的金融教育家として講演や執筆活動を行う。著書に『きみのお金は誰のため』、高校の社会科教科書『公共』(共著)など
たうち・まなぶ◆1978年生まれ。ゴールドマン・サックス証券を経て社会的金融教育家として講演や執筆活動を行う。著書に『きみのお金は誰のため』、高校の社会科教科書『公共』(共著)など

 いま本当に求められているのは高級なブランド米を作ることなのだろうか? むしろ、これから減少していく労働人口でも、十分な量の普通においしいお米を作れるような効率化こそが求められているのではないだろうか。

 経済活動で生まれるのは「カネ」ではなく、「モノ」や「サービス」だ。フランス革命前の貴族が、「パンがなければケーキを食べればいい」と無邪気に語ったという逸話を思い出してしまう。

 高級なブランド米を売れば、たしかに給料は上がる。しかし、ふつうの米は売られていないから、自分も高級ブランド米を買わないといけなくなる。

 重要なのは、社会全体がバランスよく恩恵を受けられる経済政策を目指すことだ。高付加価値を追求するあまり、本当に必要な商品やサービスが手に入りにくくなるようでは意味がない。富裕層向けの商品が社会のスタンダードになれば、多くの人がそれに追いつけず、格差は一層深刻になるだろう。

 そして、私たちの社会は、努力した人が報われるような仕組みであるべきだろう。生まれ持った資産格差を一世代の努力で逆転できるような、公平な競争の機会を確保することが重要だと思う。炊飯器が10万円を超える高付加価値社会よりも、誰もが努力次第でおいしいご飯を炊けるような社会のほうが、ずっと豊かで幸福なのではないだろうか。

AERA 2025年4月21日号

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