JR四国・予讃線「伊予灘ものがたり」:櫻井さんは「伊予灘ものがたり」を「数ある観光列車のなかでも有数のすばらしさ」と語る(写真:櫻井 寛)
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 流れゆく車窓を眺めながら、車内で地元の食材に舌鼓。心地よい揺れに身をゆだねていると、いつしか夢見心地に──。移動中も目的地も楽しい、春のお薦め路線はどこか。鉄道写真家・櫻井寛さんに聞いた。AERA 2025年3月24日号より。

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 鉄道旅の魅力の一つに、食がある。

「車窓の景色を楽しみながら、車内で食事やお酒を味わえるのが鉄道旅の魅力です。居眠りをしたっていい。ゆったり過ごすことこそ醍醐味でしょう」

 鉄道写真家の櫻井寛さんが春の旅におすすめの鉄道として挙げたのは、いずれも車内での飲食を楽しめる観光列車。筆頭がJR四国・予讃線の「伊予灘ものがたり」だ。週末と祝日、松山~伊予大洲間と松山~八幡浜間をそれぞれ1往復の1日4便。眺望絶佳、伊予灘の海岸際を列車は進む。道中いくつもの桜の駅が待ち受ける。タンポポの黄色もまた、美しい。伊予灘の装いは朝、昼、夕とそれぞれ変わり、各便独自の食事も楽しめる。

「時間帯によって景色も食事も変わります。一つ乗ったら、きっと4便すべて乗ってみたくなりますよ」

 3号車はフィオーレスイートと呼ばれるグリーン個室。3万3600円の個室料金で1両を貸し切れる。海向きソファシートの前に大きなテーブルがあり一部が鏡面仕上げになっている。

「車窓に見える海も桜も、映り込みで全部2倍になって目の前に広がります。圧巻です」

 九州・平成筑豊鉄道の「ことこと列車」も楽しい。九州は観光列車の激戦区だが、櫻井さんが選んだ平成筑豊鉄道は炭鉱跡地を行くローカル線だ。

「観光の要素は多くないけれど、だからこそ乗ることに楽しみを見いだせる列車です」

 車内で供されるのは地元の食材をふんだんに使ったフレンチコース。のどかな田園風景のなかを、ことことと行ったり来たり。移動を目的とするのではなく、列車と車窓、車内の食事をゆったり楽しむ櫻井さん流の旅を体現する列車と言えるだろう。

 三つ目が近鉄南大阪線・吉野線「青の交響曲(シンフォニー)」だ。大阪阿部野橋~吉野間を1日2往復。誰もが知る桜の名所・吉野山にこの列車で向かう。運行時間は1時間20分ほどと長くないが、食事・スイーツ・アルコールまで車内メニューは充実している。満腹、ほろ酔いになったころに列車は吉野川を渡り、吉野の山へと分け入っていく。吉野駅に降り立つと、そこはもう桜の中だ。

「あの感動は言い表せない」

 車窓に広がる春のカーテンを見るために、櫻井さんはこの春もたくさんの旅を計画している。

(編集部・川口穣)

AERA 2025年3月24日号

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