たうち・まなぶ◆1978年生まれ。ゴールドマン・サックス証券を経て社会的金融教育家として講演や執筆活動を行う。著書に『きみのお金は誰のため』、高校の社会科教科書『公共』(共著)など

 さらに深刻なのは、「正社員であるか非正規であるか」という雇用形態そのものが、人生を大きく左右するほどの格差を生んでいる点だ。就職氷河期世代はこの雇用形態格差の直撃を受けた。正社員になれず非正規の立場でキャリアを始めた人々の多くが、十分な収入や安定したキャリアを得られずに苦しんでいる。

 世代間格差の議論は、「正社員採用が多かった時代はずるい」という不満にもつながるが、本来問題視すべきは、「正社員か非正規か」で人生が決まってしまう日本型の雇用制度そのものではないだろうか。

 物価高で苦しむなか、新卒の初任給を上げることは重要だろう。しかし、それだけではなく、年齢や世代、雇用形態を問わず、公平で柔軟な働き方と評価制度を作ることも考えないといけないのではないだろうか。

 いうまでもないが、仕事を選ぶ上で、「月収」がすべてではない。小説『月収』で幸せをつかんだ女性たちは、仕事の中に、働きがいや生きがい、自分の居場所といった「お金では手に入らないもの」を見つけていた。私たちもまた、給与の多寡や制度の格差だけでなく、「働くことの本質的な意味」を改めて考える時期に来ているのかもしれない。

AERA 2025年3月17日号

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