
物価高や円安、金利など、刻々と変わる私たちの経済環境。この連載では、お金に縛られすぎず、日々の暮らしの“味方”になれるような、経済の新たな“見方”を示します。 AERA 2025年3月17日号より。
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「月収」という言葉につい引き寄せられてしまう。バラエティー番組でも、さまざまな職業の人たちの月収の明細が披露される企画は人気だし、芸人さんが自身の最高月収を明かせば、スタジオは必ず盛り上がる。
最近では、小説家の原田ひ香さんが、最新刊『月収』で、月収4万円の年金生活者から月収300万円の資産家まで、多様な女性の生き方を描き、話題を集めている。
現実の世界でも「月収」は大きな話題だ。
大和ハウス工業は今春から新卒の初任給を25万円から一気に35万円に引き上げる。一昨年に初任給を25万5千円から30万円に上げたばかりの「ユニクロ」を運営するファーストリテイリングは今回33万円に上げるそうだ。
こうした背景には人手不足があり、企業が優秀な新卒者を確保するために競争を激化させている。
初任給アップは、若い世代にとっては朗報に見える。しかし、厚生労働省の賃金構造基本統計調査を見ると、世代間の格差が浮かび上がる。5年前と比較した大卒者(5年前は院卒も含む)の給与上昇率は、20〜24歳で10.5%、25〜29歳で9.3%と順調に伸びている一方で、就職氷河期世代にあたる45〜49歳では1.3%の上昇にとどまり、50〜54歳ではむしろ4.3%減少している(5年前の同じ年代と比べているので、実際に給料が下がっているということを意味していない)。
企業が若い人材を確保するために初任給を引き上げる一方、中堅・ベテラン社員の給与は停滞している。場合によっては社員のやる気を下げる可能性も否定できない。
しかし、問題の本質は「世代間格差」なのだろうか。そもそも日本の終身雇用や年功序列型の給与制度自体に限界が来ている。
これまで企業は、「将来の給与アップ」を前提に若者を安い給与で雇い入れ、働かせてきた。だが、今やその仕組みが維持できなくなり、新卒時の給与だけが急激に引き上げられているのが現状だ。