
どんな曲から入ればいいかについては、出合ったものから聴いていくのがいいと思いますが、最初からあまりにも前衛的すぎるものだと現代音楽へのハードルが上がってしまうかもしれないですね。たとえば、私が「題名のない音楽会」で演奏した1曲目の楽曲は、ヴィヴァルディ作曲の「四季」を、マックス・リヒターという現代の作曲家がリ・コンポーズ(再構成・再作曲)した曲。このように知っている曲がベースにある曲は入門に向いていると思います。また、ジャズ要素を取り入れた現代音楽など、自分が好きなジャンルの要素が入っているものから聴くのもおすすめ。そこから芋づる式に同時代の作曲家をたどるなど、自分好みのものを探していくと良いと思います。
ジュリアード音楽院に在籍していた頃に、MoMA(ニューヨーク近代美術館)で毎年開催される現代音楽のコンサートで演奏したことがあります。現代作曲家の新曲をこのコンサートで初演するのですが、無料ということもあって若い人が大勢聴きに来るんです。ニューヨークにはふだんからいろいろな音楽を楽しむ土壌があるんだなと実感しました。「現代音楽」と言うと堅いイメージがあるかもしれませんが、言ってみれば「イマドキの音楽」。知らない世界へのドアを開けてくれるところがあるので、未体験の方はぜひ一度聴いてみてください!
Q. 2025年も恒例の元旦のテレビ番組での演奏からはじまり、コロンビア大学ビジネススクールでのレクチャーとコンサート、デンマーク国立フィルとの共演など、ますます精力的です。日本を拠点にしてから音楽活動はどのように変化しましたか?
A. 日本に拠点を移してから、演奏する楽曲の幅が圧倒的に広がりましたね。ニューヨークでは他の音楽家とコラボレーションすることが多かったんですけど、日本ではリサイタル(独奏会)の機会が本当に増えました。自分で約2時間のプログラムを作れるので、今まで演奏するチャンスがなかった曲も入れられるようになったのが大きいと思います。クラシック以外にも、J-POPや現代音楽をテレビ番組等で弾くこともありますし、ライフワークとしてアルゼンチンタンゴの演奏も続けています。
ソリストとしてアンサンブルやオーケストラの皆さんと一緒に演奏する機会も増えました。ステージ上でコミュニケーションをとりながら本番をリードしていくことは刺激がありますし、みんなで一つの音楽を作るのは何度やっても気持ちがいいです。5月には横浜、愛知、金沢でデンマーク国立フィルハーモニー管弦楽団との共演を予定しています。オーケストラと複数公演を一緒にまわるツアーは初めてなので、今から楽しみなんですよ。
どの公演も、「一人でも多くの人に生のバイオリンの音を届けたい」という私の生涯の目標を胸に演奏しています。リサイタルでは演奏の合間のトークやサイン会などでお客さんと直接交流できるので、特にやりがいを感じますね。公演でいろいろな地方に行くようになり、日本のことを以前よりも知ることができるようになったのもうれしい変化です。
構成/岩本恵美 衣装協力/BEAMS