実際、この証言が重視されたことは、高裁の法廷で、裁判長がこの証言に言及をしながら、ジャニーズ側代理人弁護士に、「なぜこのような供述になったのか、陳述書で説明できるのであれば、してほしい」とわざわざ要請したことからも窺えるのである。

 本には書かれていないが、日産のグレッグ・ケリー被告が、カルロス・ゴーンの報酬隠しに手を貸したとして起訴された裁判でも、検察側が開示したテラバイトもある膨大な電子資料を丹念に読み込み、一通のメールをみつけだし、検察側の証人となった男が嘘をついていることを立証した。

「相手側の資料や証人の証言をつかって、こちらの主張を組み立てれば、事件の全体像がぐるっと変わり、まったく違う様相を呈する。裁判官の印象にも強く残る」(喜田村)

 ブックレットは、ジャニーズタレントが公然わいせつで逮捕、釈放された際、TBS報道局の編集長が、編成局の圧力をはねのけ報道した話で終わっている。

 喜田村は、このくだりを、TBSの「旧ジャニーズ事務所問題に関する特別調査委員会による報告書」からひき、ブックレットを、こう閉じるのだ。

〈このような編集長や報道局員がいる限り、自由な報道は続いていく〉

 喜田村は、TBSの事件を弁護士としてうけたことはないから利害関係はない。

「会社がどう言おうと、個人として、部員として、編集長としてやるべきことをかまわずやる。たった一人であってもやる。そういう人が一人でも多くなることで、報道は前に進んでいく、そのことが言いたかったんです」

 喜田村は、東大在学中に司法試験に合格し、80年から1年間、ミシガン大学のロースクールで学び修士号をとる。当時、アメリカに留学する弁護士は、帰国後の仕事を考えて、反トラスト法などビジネス法を専攻するのが常だった。が、喜田村はロースクールで、「合衆国憲法修正第一条」を研究テーマとした。

「合衆国憲法修正第一条」は、報道、表現の自由を制限するようないかなる法律もつくってはならないとするジャーナリズムの根本を支える条文。

AERA 2025年3月10日号

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