羽生さんは、その思いを見事に演技のパワーへとつなげた。冒頭でキレ味のある4回転トーループ-3回転トーループを決める。あまりの高さに目を疑うほど。さらに「トリプルアクセル-2回転、トリプルアクセル-オイラー-3回転サルコー、3回転ループ、3回転ルッツ」と大技を成功させていく。クライマックスのイナバウアーでは、ひときわ大きな声援が起きた。これぞプロフェッショナル、といえる至極の滑りだった。
演技後、今のコンディションについて聞かれると、素の一面ものぞかせた。
「東京ドーム公演が終わり、3月にはすごく意義の深い(東日本大震災の追悼となる)ショーを全力でやりました。今は、ちょっとおいしいものとか、チョコパイとか甘いものを久しぶりに食べています。体調自体はそんなにベストではありませんが、しっかり全力で、すべての演技に全神経を注いで頑張りたいと思います」
2月に東京ドームで単独公演、3月にも宮城で主催公演と渾身(こんしん)のショーを敢行したばかり。3月末から全国ツアーに出演するのはかつてないハードスケジュールである。しかし、「プロ」という肩書がその背中を押した。
「このスターズ・オン・アイスはアマチュアとプロが集まり、それぞれが全力でプログラムのテーマを皆さんに伝えようと頑張ってるショーです。僕もプロの一員として何かをお届けできたらいいなと思い、久しぶりに(同ショーで)滑らせていただきました」
(ライター・野口美恵)
※AERA 2023年4月24日号より抜粋