それから年月が流れ、地元の酒造家たちは根気強く復興を進めてきた。蔵そのものを建て直すだけでなく、見学用の資料館をつくったり飲食店を併設したりして、観光客が訪れやすい仕組みを整えている。いまでは全国の日本酒ファンが集まるだけでなく、日本食ブームの後押しもあって、海外からの観光客も増えているらしい。
あの大震災で大きく崩れかけた産業を、ここまで蘇らせたのは、地元の人々の熱意と努力の賜物だろう。
そして今、石破政権が「地方創生2・0」を掲げている。灘五郷の例を見てもわかるとおり、地場産業は単にモノを生産するだけでなく、その地域ならではの文化や歴史、人材を育んでいる。こうした特性をしっかりと支えることこそ、地域を明るい未来へ導くカギになるのではないだろうか。
日本にはそれぞれの土地に根付いた強みがあり、それが組み合わされば、もっと活気づく可能性がある。
震災から30年たった今、街並みは変わったが、人々の思いは続いている。地域特性を生かした産業が育まれ、そこに住む人たちの誇りや意欲が結びつけば、地方が元気になるだけでなく、日本全体にとっても大きな力になるだろう。震災を乗り越えた灘五郷の酒造家たちが教えてくれているような気がする。
※AERA 2025年2月3日号