河合隼雄賞受賞後、1作目となる短編集。読了後、収められた九つの物語それぞれが頭の中で溶けあい、本を読んでいたというより、口伝えの民話を聞いていたような心地にさせられた。
 舞台や登場人物は、1話ごとに異なる。共通するのは、水の存在だ。たとえば表題作「海と山のピアノ」では、海からピアノとともに流れついた少女が町に変化をもたらす。「ルル」では、「あの日」以来、心に大きな傷を負った子どもたちが登場する。そうとは明言しないが、震災が下敷きになっていることを読者に想像させる。「海賊のうた」「野島沖」では、海と主人公との間の命のやりとりが印象的だ。海が命をうばい、命をはぐくむ。その事実を描くことは以前より難しくなったのではないか。本書はそれを正面から扱った意欲作である。

週刊朝日 2016年9月23日号