そのため、違約金規模はさらに膨らみ、現在では3月時点の試算額をはるかに上回る可能性が高い。

 今回のトラブルを受け、ファンはニュージーンズを支援しようとする気持ちが強まり、公演はいままで以上の活況が予想される。しかし、集客数が多くなるほど違約金が増えていくという皮肉な現実がある。

 韓国のあるベテラン芸能記者によれば、ミン氏がHYBEと対立していた今年4~5月、一部の大企業やエンターテインメント関係会社が「違約金を肩代わりするので、新しい契約を結ぼう」とミン氏やニュージーンズをスカウトしようとする動きがあったという。

 ただ、違約金の規模が大企業にとっても負担が大きすぎる額に膨らむ可能性が高いため、大手企業であってもスカウトの動きは鈍ってはきているようだ。

不法行為の具体的な証拠は見当たらず

 一方、ニュージーンズがADORを「契約違反」として訴え、契約解除を正当化することで違約金を回避する可能性も議論されているが、 民事訴訟、特に金銭に絡む契約関連訴訟に精通した弁護士によれば、その道のりは容易ではないようだ。

「これまでの判例を見ると、専属契約の解除に成功した事例は、暴行やセクハラ、賃金の未払いなどの重大な違法行為が証明された場合に限られます。ニュージーンズの場合、業界最高水準の待遇を受けており、そうした不法行為の具体的な証拠は見当たりません」

 また、(日本の厚生労働省にあたる)雇用労働部の判断では、メンバーは勤労基準法上の「労働者」には該当しないため、労働環境に関する主張も難しいとされる。

 さらに、ADORやHYBEはニュージーンズの契約解除による損害額を、単純な売上損失以上に算定する可能性がある。「世界的なKポップグループ」を失うことで生じるイメージ損傷や、慰謝料請求が追加されることも予想される。“紛争”が長期化した場合、高額な弁護士費用もニュージーンズ側にとって大きな負担となり得る。

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アーティストと芸能人の契約の在り方について議論