「仕事を辞めて戻ってくるね」そう伝えると父は安堵した表情を見せ、義姉は「そうだね」と言った。兄は「いいのか?」と言ってくれたが、うなずくことしかできなかった。

仕事を辞めてからは夢を失った喪失感の中、変わり果てた母のお見舞いと父のサポートに心身を削られた。半分鬱のような状態だったと思う。気丈にふるまっていたが、気を抜くと涙がこぼれ、シャワーを浴びながら泣いた。「死にたい、だけど死ねない」。毎日そんなことを考えていた。
 

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6年以上がたった今もなお、周囲の状況は何も変わっていない。兄夫婦からのサポートはなく、父は家事をしない。前の職場から仕事をもらい、好きな仕事はなんとか続けられているが、実家だから生活できる程度の収入しかない。婚活に励んだ時期もあったが、縁はなく結婚も出産もできなかった。望みはあるが、正直、現実的ではない。

母を支えていくと決めたこと、あの時下した決断に後悔はない。だけど、本当にほかの手段はなかったのだろうか。こんなに一人で抱えなくてはいけないのだろうか。こんなに一人で苦しまなくてはいけないのだろうか。もう少し私に知識と勇気があれば変えられる部分もあったのではないだろうか。

10年後にはもう少し“女性がやるべき”という固定概念は少なくなっているだろうけど、なくなってはいないと思う。特に介護は。家庭の事情が大きく影響するからか、腫物を触るように誰も関わろうとしない。

要介護が必要になった本人が一番つらいのは分かっている。その人を支えるためにみんなで策を練り協力体制を整える。そのことに疑問はないし、介護福祉士の方々には感謝の思いしかない。でも、じゃあ、私の未来は? 私の苦しみの行き場は? 孤独に襲われ、希望が持てなくなる。
 

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