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 Z世代の女性向けエッセイ投稿サイト「かがみよかがみ(https://mirror.asahi.com/)」と「AERA dot.」とのコラボ企画は第5弾。「10年後の女の子のために」をテーマに、エッセイを募集しました。多くの投稿をいただき、ありがとうございました。
 投稿作品の中から優秀作を選び、「AERA dot.」で順次紹介していきます。記事の最後には、鎌田倫子編集長の講評も掲載しています。
 ぜひご覧ください!

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たとえ結果が同じだったとしても、自分の気持ちを殺すのはやめてほしい。暗黙の了解とか空気を読むとか、自分が我慢すればとか、諦めさえすれば、とか。
 

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田舎を出て上京したのは大学卒業後。自分の夢をかなえるため、アルバイトで入社した。男社会の中、男性のようにタフに、まじめに、積極的にと必死に働いた。そして3年後、契約社員に引き上げてもらうことができた。

2年目にはあこがれていた大きなプロジェクトに参加することになり、忙しさはさらに増したが、とにかく楽しかった。そのプロジェクトが終わった時には大きな充実感に満たされ、天職だと感じた。
 

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だがその2カ月後、母が倒れた。脳出血だったため右半身麻痺と記憶障害、失語症などが残り介護が必要な状態に。

実家に帰って驚いた。父は洗濯や料理はしていたようだが、洗面所やトイレの汚れが目立った。仕事一筋で亭主関白な父を一人で支えていた母。倒れた途端、実家がいつもとは違う場所のようになった。

早く決断しなくては。父は私よりも稼ぎが多い。兄は結婚しているが、義理の姉は母の面倒を見る気はない。それは表情と空気感で分かった。いつも優しく大好きだった。だが、急に視線は冷たく、連絡も一切くれなくなった。きっと、近づくことを恐れていたのだと思う。長男の嫁、母とも仲が良かった。だからこそ。薄情だとは思わない。これが現実だと思った。両親を東京に呼んで私が養うのは現実的ではない。

夢をあきらめて実家に帰る。それしか選択肢はない。29歳、介護をしている友達はいなかった。誰にも相談できなかった。

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