――20年1月に芸能界復帰し、昨年は芸能活動40周年のライブを行いました
ステージで歌うことに不安、怖さはありました。こういう状態で歌ったときに、ファンの方たちががく然としないかな、幻滅しないかなって。でも温かく迎えてくれて、「生きてくれてありがとう」って叫んでくれた方がいて。がんになったときは二度と歌えないとあきらめていたし、頑張ってきてよかったなと。ファンの方たちには感謝の思いしかありません。家族も会場に来てくれたのですが、長女が「お母さん歌ってよかったね!」とすごく喜んでいたのが印象的でした。
ボイトレ続けたら出なかったキーが出るように
――ご家族の支えがほんとに大きかったんですね
私ががんの宣告を受けたとき、長女は16歳でした。思春期の多感な時期に私が病気になったので、心配を掛けさせたくないと大人にならざるをえなかったと思います。私は家族にしか自分の思いをぶつける人がいないから、涙を流して悔しい思いを吐き出していたけど、長女や夫、他の子どもたちも辛かったんだなって。私だけでなく、がんになった当事者の家族は辛い思いをしていると思います。自分の経験がお役に立つなら伝え続けていきたいですね。
――発声法を変えて音域が広がったとうかがいました
そうなんです。ボイストレーニングを続けたら、出なかったキーが出るようになって。元に戻ることはできないけど、人間ってすごいなと思いました。がんになって失ったものはありますけど、気づかされたこともたくさんあります。日本語は英語みたいに破裂音が強いわけではなく、舌と唇、頬の内側、歯茎などいろいろな部分を使ってきれいな音を出します。言葉を紡ぐことで日本語独特の奥ゆかしさが出てくる。今まで気づかなかった魅力を感じましたし、これからも言葉を大切に生きていきたいなと思います。
(聞き手・平尾類)