物価高や円安、金利など、刻々と変わる私たちの経済環境。この連載では、お金に縛られすぎず、日々の暮らしの“味方”になれるような、経済の新たな“見方”を示します。 AERA 2024年11月25日号より。
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駅前に立つ巨大な恐竜の像が動き出して驚いたのは、福井に行ったときのこと。拙著『きみのお金は誰のため』を読んでくださった司書さんから連絡をいただいて、先月、福井県立図書館へ講演をしに行ってきた。
県立図書館というからには、駅の近くにあるのかと思いきや、福井駅から車で10分ほどの距離にあるという。
どうして、そんな不便な場所に建てたのか。迎えにきてもらった車中で図書館の方に聞いたところ、福井は車社会だから、広大な駐車場を確保するために、郊外に県立図書館を建設したそうだ。なるほど、福井は持ち家率が全国トップクラスだという話を聞いたことがある。東京と同じ感覚で考えてはいけない。
しかしながら、車を運転しない人たち、とくに子どもたちはどうするのだろうか。さらに聞いてみたところ、「そこが問題なんですよ」と、図書館の方は神妙な顔をされた。県立図書館や福井駅を周遊するコミュニティーバスを走らせているそうだが、運転手不足で4月から減便したそうだ。
コミュニティーバスに限らず、福井市の運転手不足が深刻らしく、京福バスや福鉄バスも10月から2社合わせて6路線の廃止と173便の減便に踏み切ったそうだ。
東京でもコンビニなどで人手不足という話はよく聞くが、地方は日常生活に支障をきたすことが起き始めていて深刻さが違う。
この労働力不足の背景には、もちろん人口動態の変化がある。生産年齢人口(生産活動を中心となって支える15〜64歳の人口)は現在7500万人程度だが、40年後には4500万人程度まで減少する。4割も減ってしまうのだ。
「いやいや、日本の総人口も減るんだから、問題は生産年齢人口の割合でしょ」という声もある。たしかに、総人口に比例して減る仕事も存在する。ごはんの消費量や弁護士への依頼件数は、人口に応じて、必要になる仕事量も減っていくだろう。しかしながら、インフラに関わるような仕事はそうではない。さきほどの路線バスの話がいい例だ。人口が半分になったから、路線を半分にしたり便数を半分にしたりすると不便になる。