東浩紀/批評家・作家。株式会社ゲンロン取締役
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 批評家の東浩紀さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、批評的視点からアプローチします。

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 米大統領選が終わった。次期大統領は共和党のトランプ前大統領に決まった。

 選挙前は民主党優勢の予測もあり、少なくとも接戦と見られていた。しかし結果はトランプ候補が接戦州全てで勝利し圧勝となった。連邦議会選でも共和党は上院で過半数を確保、下院でも過半数に迫っている(12日現在)。

 トランプ候補の危うさは広く知られている。多くの醜聞を抱え、2021年の議会襲撃への関与も疑われている。ヘイトまがいの発言も多い。不法移民の一斉強制送還や関税強化など過激な政策も目立つ。専門家の多くは不安定な政権運営を憂慮している。

 にもかかわらず圧勝となったのは、民主党がそれ以上に忌避されたからだ。左派(米国のリベラル)はかつて労働者や貧困層の味方だった。いまもそのイメージは残る。

 しかし現実は異なる。フランスの経済学者トマ・ピケティの調査によれば、欧米の左派政党の支持基盤は1980年代以降は高学歴層へ移行している。つまり左派の主張はいまや富裕層の文化的ファッションへ変質してしまっている。実際、近年の左派は気候変動やアイデンティティ政治など「意識の高い」政策に熱心で、足元の格差や貧困には冷淡だった。

 米民主党はまさにそんな高学歴志向左派の典型だった。都市住民ばかりを見て多数派の気持ちを掴み損ねた。そのズレを象徴する一例がハリウッドセレブ頼みの広報戦略だ。今回の選挙結果は、そのような「金持ち左派」への幻滅が露呈したものだと言える。

 だとすれば、この敗北は米国だけの問題ではない。日本を含む他国でも続く可能性がある。今後、前世紀のイメージに頼ったリベラルは総崩れを起こし、新しい知識人層が新しい階層から立ち上がることになるのではないか。私たちは大きな構造変化の始まりに直面しているのかもしれない。

 現在の政治を動かしているのは、右傾化でも排外主義でもなく格差への怒りである。米民主党はその現実に鈍感だった。そこへの反省なくトランプ支持者を愚かと罵るのでは、リベラルの再生はないだろう。

AERA 2024年11月25日号