AERAで連載中の「この人のこの本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。
【写真】第34回鮎川哲也賞を受賞した珠玉のバディ小説『禁忌の子』
救急医・武田の元に、自分とそっくりの顔をした溺死体が搬送されてくる。身元不明の遺体「キュウキュウ十二」はなぜ死んだのか、そして自身と関係はあるのだろうか。武田は旧友で医師の城崎と共に調査を始める。しかし鍵を握る人物に会おうとした矢先、相手が密室内で死体となって発見されてしまう。過去と現在が交錯する、医療×本格ミステリー! 第34回鮎川哲也賞受賞作『禁忌の子』。著者の山口未桜さんに同書にかける思いを聞いた。
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『禁忌の子』は救急医である武田航のもとに、一体の溺死体が運ばれてくるところから始まる。似ているというレベルを超えた、自分と瓜二つの顔を持つ男。彼の死の理由と自分との関係を探るために、武田は旧友で同じ病院に勤める医師の城崎響介とともに調査を始める──。
医師ふたりのバディが魅力的な本書は第34回鮎川哲也賞受賞作。本書がデビュー作となる山口未桜さん(36)は、基幹病院に勤務する現役医師だ。作中には医師ならではの確かな観察力と描写が光る。
「本を読むのはずっと好きでした。高校時代、文芸部で活動したのが楽しくて『文学部に行って作家か脚本家をめざしたい』と思ったことも。結局、両親の勧めもあって医学部に進学しましたが、どこか欠落感を抱えていました。医師になってからも研究を続け、充実した生活だったんですよ。ただ2020年、コロナ禍で出産、子育てが始まると仕事も研究も思っていたようにはできなくなりました」
山口さんは育休からの復帰後もフルタイムで働き、当直もこなした。「母親になったから」を言い訳にしたくなかった。だが何年もかけてきた研究は、学会そのものがコロナで中止に。勤務時間にも制限があり、子どもを寝かしつけてから研究のために病院へ戻ることは難しかった。