元朝日新聞記者でアフロヘアーがトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。
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実は、投票をかなりサボりがちな人間だ。とりわけ会社を辞めてからがひどい。良くないとはわかっちゃいるが、世の多数派から外れて糸の切れたタコとして自分流の価値観で暮らすようになると、世間様からどんどんズレてくる。自分の考えと近いと思える政党も候補者も全く見当たらなくなった。「よりまし」な候補に投票すべしとよく言われるが、その「まし」も発見できない場合は、この人の当選だけはイヤというネガティブな動機だけで、さして共感できない対抗馬に一票となる。そんな投票でもしないよりマシなのか? どうも納得できず、ぐずぐずしているうちにタイムアウト。
で、今回も同じ罠に落ちてもおかしくなかったんだが、落ちなかったんです私。一票を投じました。それも暗い一票ではなく爽やかな一票を。
きっかけは1通のメール。しばらく前から難民支援のNGOに定期的に寄付をしている関係でニュースレターが届くんですね。その中の一つの団体が、難民支援をどう考えるか候補者にアンケートを取り、政党別に回答をまとめたものを送ってくれたのだ。
一番へえと思ったのは、想像以上に政党間の差が激しいこと。選挙となると、どの政党も子育て支援とか物価高対策とか似たり寄ったりの釣り公約ばかりと思っていたが、難民支援に関しては全くそうじゃなかった。それだけ一筋縄ではいかない問題なのだろう。でも私は、この混迷する世界において「困った人を助ける国であろうとすること」は本質的に重要だと思う。実を言えば、寄付を始めてから、日本がいかに世界有数の「困った人を助けない国」かを知ったニワカなんだが、実際世界はどんどん狭くなっていて、困った人が隣にいるのに自分たちだけが豊かで幸せなんてありえないと思うようになった。つまりはこのアンケートは、そういう「我々はどう生きるか」という大きなことを示していると思えたのだ。
ってことで、私はこのアンケート結果を元に投票先を決めた。結果は死に票。でもこれで良かったと心から思う。
※AERA 2024年11月11日号