元朝日新聞記者でアフロヘアーがトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。
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なんか急に選挙。理由はよく分からない。だがとりあえず選挙。解散を決めた新総理の石破さんが「全ての人に安心と安全を」を掲げているので、この言葉を基準に取るべき投票行動を考えることにした。
ちなみに「安心・安全」はだいぶ前から政治の世界では流行っていて、与野党問わずちょいちょい見かける。確かにそれに反対する人はおらんやろから選挙向き。でも改めて考えると「安心・安全」って暮らしの超基本で、それが堂々たる中心課題になってるってことは、我らはかなりヤバい地点(不安・危険)に立ってるってことだ。その点は私も同意する。我らは相当ヤバいことになっている。
で、問題は、どうやったらそのヤバさを脱出できるのか、何を優先してやらなきゃならんのかってことで、それを決めるのが選挙なのだろう。
私が考える「安心・安全」のための最優先事項は、温暖化など環境破壊の防止、格差解消、この二つだ。
このコラムでも何度も触れているが、今や環境問題は意識の高い人が騒ぎ立てる何かではなく、今ここにある脅威である。我が国でも異常気象による災害の頻発は少なからぬ人の生活を破壊し続け、対処のスピードはどんどん遅くなっている。その根本原因に手をつけぬ限り我らに未来はない。災害だけではない。自然のバランスは加速度をつけて崩れ中で、世界中で食糧生産の常識が通用しなくなっている。ここをスルーして安心・安全なんてあるのか。
そして、生活苦を解消するのに必要なのは、給付金ではなく格差解消だと私は思う。給付金は将来世代からの未承諾の借金、問題の永遠の先送りだ。一方で不動産価格も株価も高騰してる歪な現実を思えば、幸運にも儲けすぎた人から、不運にも儲けられなかった人へ再分配することは政治最大の役割である。
と一生懸命考えたものの、そのような主張をする政党や候補者が見当たらない。私は圧倒的少数派なのだ。それでもいいけど投票には困る。いつも困る。
※AERA 2024年10月28日号