3月27日にヘンリー王子が突然ロンドンに姿を現した。王立裁判所前でタクシーを降り、気付いたメディアに「おはよう」と挨拶する愛想のよさだ。これはイギリスのタブロイド紙「デイリー・メール」などから電話の盗聴などをされプライバシーを侵害されたと訴えた裁判で、4日間の予備審査の初日だった。ほかにエルトン・ジョンなど原告は6人。王子たちは実家のプライバシーは許可なく明かすのに、自分のプライバシーを明かされると裁判まで持ち込むと揶揄されている。「私たちは塩と胡椒のビン。いつも一緒に行動する」と話したメーガンさんは姿を見せなかった。『SPARE』発売あたりからの二人の別行動が目立ち始めている。

 27日、ヘンリー王子は父に連絡を取った。しかし、側近からの返事は「国王はただ今忙しくていらっしゃいます」。国王と王妃は29日からのドイツ公式訪問の準備中だった。次に、兄に連絡した。しかし子どもたちがイースター休みで、「住まいのアデレード・コテージを離れておられます」が秘書官の返事だった。予備審査では、王子は必ずしも出席を必要とされない。渡英の狙いは戴冠式出席に伴う条件のネゴだったとみられる。しかし、王族は王子夫妻との会話には慎重にならざるを得ない。王子はロンドンに飛んだものの相手にされなかった。残した話題は、王子がディオールの15万円近いシャツを着ていたことから、「このブランドと契約したのか」という臆測だった。

 チャールズ国王は身内にトラブルを抱えるが、同時に英連邦の国々の離脱やスコットランドなどの独立機運と向かい合わないといけない。英連邦の一つオーストラリアの5ドル紙幣には亡くなった女王が描かれていたが、新紙幣にはチャールズ国王は採用されない。女王が王室人気を支えていたとも言え、それを失った今、国王自身が君主制の存在意義を積極的に見せるべきなのだろう。ダイアナ元妃への追慕の情がまだ根強く残るからこそ、それを上回る人間的魅力が求められる。5月7日の祝賀コンサートに人気歌手は「日程が合わない」と欠席が目立ち、戴冠式にはバイデン大統領も参列しない。イギリスの戴冠式に「アメリカ大統領が参列したことはない」と説明されるが、国王の求心力不足は否定できない。新国王の行く手には難題が山積みだ。戴冠式後は待ったなしの取り組みが求められる。(ジャーナリスト・多賀幹子)

AERA 2023年4月17日号より抜粋

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