特許権で大学の発明を守る

 そもそも大学で特許を得るとは、どういうことなのだろうか。大学のなかで世の中をあっと言わせるような画期的な発明が生まれた。たいていの発明は、多くの人たちの協力、莫大な費用などによってもたらされる。そのためには失敗も多かったことだろう。苦労して生み出した最先端技術が盗まれては元も子もない。発明は自分たちが自由に使えるものであって、他者に使われてはならない。つまり発明に対する自分たち(発明者)の権利を守る必要がある。それが特許の基本的な考え方だ。

 そして、発明を独占的に使用する権利を特許権という。たとえば、高画質のスマートフォン用ディスプレーを発明した場合、特許を取らなければほかのメーカーがその技術をまねして利益を得ることができてしまう。そうした盗用を防ぐための独占使用権である、その数が「特許権実施等件数」だ。また、第三者は一定のライセンス料(使用料、実施料)を支払えば、特許を利用して商品開発ができる。その際のライセンス料収入を「特許権実施等収入」という。

ロボット、医療… 分野は多岐にわたる

 24年度京都大の特許実施、つまり発明したおもなテーマについて、高校生でもイメージをいだける内容をいくつか紹介しよう。

「歩行ロボットの制御装置」「走行レールおよびこれを用いたメンテナンス装置」「てんかん発作予測装置、心電指標データの分析方法、発作予測コンピュータプログラム、モデル構築装置、モデル構築方法、モデル構築コンピュータプログラム」「植物原料由来の凍結防止剤の製造方法」「肝細胞の製造方法」「情報処理方法、コンピュータプログラム、学習済みモデル及び情報処理装置」「放射線検出器、及び放射線検出器の製造方法」

 ものづくりが大好きな少年少女をわくわくさせるテーマが並ぶ。

技術の掛け合わせでさらなる飛躍

 地方大学もがんばっている。「研究者1人あたりの特許権実施等収入額」において、鳥取大は21年度には2万5千円以下で30位以下だったが、22年度は17万4千円となり2位に浮上した。同大学で特許を生み出した技術には、農学では「きのこ抽出物からの美白成分を同定」、医学では「ポリープ等の切除、回収を効率的に行う内視鏡用デバイス」、工学では「冗長な文章の改善支援システム【教師あり機械学習と言い換え技術を利用した文章改善】」などがある。

 そして、新しい動きが出てきた。

 24年10月、東京医科歯科大と東京工業大が統合して、東京科学大が誕生する。統合前の2校はいずれも、特許権実施等件数で上位20校の中に入っている。

 東京医科歯科大は「ストレス低減薬剤」「ガス放出装置、及び、エネルギー発生装置」「ヒト頭部模型」など。東京工業大には「香り発生装置」「ワイヤレス給電システム」「学習装置、学習方法及びプログラム」などがある。東京科学大がスタートすれば特許権実施等件数は合算される。22年度実績を基準とすればランキングで6位の位置につくことになる。医療、工学の最先端研究を合わせて新しい発明が生まれることも期待できよう。

 特許というと、大きなお金が動くため、権利という法律的な面から捉えられてしまう。発明と言いかえたほうがなじみやすい。そこに夢がつめこまれているからだ。発明家といえば、エジソンを思い浮かべ、子ども時代、あこがれの存在だったという人もいることだろう。

 大学で発明してほしい。そのためには、大学の発明を調べてみてはいかがだろうか。高校生からすれば自分の将来を描けるかもしれない。

(文・小林哲夫

アエラムック「就職力で選ぶ大学2025」(朝日新聞出版)より

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