政治学者の姜尚中さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、政治学的視点からアプローチします。
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朝日新聞が1面トップで報じた安倍晋三首相(当時)と世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の最高幹部との写真は、2013年、参議院選挙の直前、総裁応接室で撮影されています。安倍長期政権の鍵を握っていた衆議院と参議院のねじれ解消の決定打になる参院選の直前に、北村経夫・現参院議員を教団側が全国組織を生かして支援することを確認する場でした。安倍総裁自らが旧統一教会の最高幹部などと、参院選の選挙対策の最終確認をしているのですから、旧統一教会との関係は個々の議員の問題で組織的な関係はないという弁明は成り立たないでしょう。
しかも、北村氏は、天照皇大神宮教の教祖、北村サヨ氏の孫です。北村サヨ氏は、岸信介氏がA級戦犯容疑で収監される前に「お前はこの日本国を背負うトップになる」とお告げをした人物です。その人物の孫を当選させるよう、岸氏の孫である安倍氏が旧統一教会の最高幹部に働きかけているのです。旧統一教会、及びその政治団体である国際勝共連合と岸氏との結びつきは、巣鴨プリズンで共にすごした笹川良一氏の仲介による教祖・文鮮明氏との面談に始まると言われています。そしてそのレガシーが冷戦崩壊後、岸氏の孫の安倍氏に受け継がれ、自民党を揺るがす「政治スキャンダル」になったのですから、歴史の因果を痛感せざるをえません。
ソ連邦消滅以後、消えていく運命にあった反共や勝共は、「世界平和統一家庭連合」の「家庭」にあるように、アイデンティティーにかかわる問題で息を吹き返し、家父長制的な家族や民族的な同質性、ナショナルヒストリーやアイデンティティーに関するイデオロギーで巻き返しを図ってきましたが、それは包括型政党である自民党の一面的な先鋭化を推し進め、多様な柔軟さと曖昧さを削ぎ落とすことになりました。保守はひとつのアイデンティティーやイデオロギーに固着しないところに強靱さとしたたかさがあるにもかかわらず、安倍長期政権以来、それが失われてしまったと言えないでしょうか。
今回の朝日の「スクープ」は、安倍政治の継承を掲げる候補者にとっては痛手になりかねないはずです。
※AERA 2024年9月30日号