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 2025年には日本の65歳以上の認知症患者数は約700万人にものぼると言われ、およそ5人に1人が認知症になると予測されている。一方で、米国やヨーロッパでは、近年認知症の発症率は減少傾向にあるようだ。日本で認知症が減らない背景と若い脳を維持するための方法を、脳外科医の中冨浩文氏が解説する。本稿は、中冨浩文『脳は何歳からでもよみがえる』(アチーブメント出版)の一部を抜粋・編集したものです。

アルツハイマー型認知症が
日本で減少しないのはなぜか

 私たちはよく「脳が若い」「脳が老ける」という表現をします。脳は組織としては新陳代謝がなされているのに、これは一体どういうことなのでしょうか?

 情報を分解して出力する脳の働きを認知機能と言います。これをある側面で切り取ったときに、言葉による言語性のIQや視覚性IQなどに分かれます。これら言語課題や視覚課題を理解し、アウトプットする能力を総称してIQと呼んでいます。

 認知機能は遺伝的要素の関与が大きいと言われます。つまり、生まれつき頭のよい人がいるのです。スコットランドの研究では、11歳のときにIQを測定し、75歳のときに再度調べた結果、元々IQが高い人は75歳でも高いことがわかりました。

 ただし、元々のIQの高さが単純に比例したわけではなく、人生・経験・環境によって75歳時のIQには大きなばらつきがありました。

 純粋な遺伝的要因だけでなく、その人がどのように生きてきたのか、環境因子が認知機能に与える影響のほうが大きいのです。

 若いころの教育、経験、環境によって鍛えられた認知機能は、年齢を経ても衰えにくいことは間違いありません。

 30年以上前まで、脳は大人になると新生しないと言われていました。しかし、記憶を司る海馬と大脳辺縁系に関連する嗅神経の嗅球は、持続的に神経新生が起きていると、1990年代にわかりました。

 アルツハイマー型認知症とは神経細胞が死滅して増えないことだと考えられがちですが、アルツハイマー型認知症の人も神経細胞だけがなくなっているのではなく、神経細胞の周りに張り巡らされているシナプスというネットワークの力が落ちているのです。

 脳は神経活動によって構造が変化します。とくにシナプスの結びつきは頻繁に変わっていて、これを脳の可塑性と言います。小中高で脳の可塑性がもっとも高くなりますが、成人期や老年期でも起こることが知られています。

 2005年に米国でアルツハイマー型認知症発生率が減少に向かっていることが発表され、世界を驚かせました。1982年から1999年までの重症のアルツハイマー型認知症発生率と比較すると、ほぼ半減していたというのです。その後、同様の報告がヨーロッパからも続きました。

 しかし、日本ではいまだに減少に転じたという報告はありません。日本では重症のアルツハイマー型認知症の好発年齢となっているのが、成長期に敗戦後の苦境をまともに受けた世代のため、裕福な教育環境や経済的な状況が欧米と比較して劣っていたためだと言われています。

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