大した病気ではない?
「それは学校でインフルの集団感染が発生した際に、いつも聞く話です」
世界保健機関(WHO)重症インフルエンザ治療ガイドライン委員を務めた慶應義塾大学医学部の菅谷憲夫(のりお)教授は言う。
「校長先生や教員は『こんなに感染者が増えるとは全く信じられない』と言う。ところが実際は、あっという間に感染が広まって、休校までいってしまう。特に今のようにみんなの免疫が落ちているときにインフルのウイルスが入ってくると、驚くほどの感染力を持ちます」
通常ならインフルは毎年流行し、ウイルスと接することで人間は免疫を保つ。ところが、日本では2021年と22年にインフルの流行がなく、国民全体で集団免疫が低下したと考えられるという。
さらに現在、流行しているのは主にA香港型のインフルだが、前回、日本でこの型のインフルが流行したのは19年4~5月が最後だ。
「日本国民の多くは3年以上、A香港型インフルの流行に接していません。特に19年春以降に生まれたほとんどの乳幼児は、A香港型の抗体を持っていないことになります」
ところが、政府や国民に危機感はあまり感じられないと、菅谷さんは指摘する。
「インフルに対する油断が広まっているようで、心配しています。新型コロナは大変な病気だっただけに、インフルはかぜと同じで、解熱剤を飲んで寝ていれば治る、大した病気じゃないよという意識を持つ人が増えているのではないでしょうか。高齢者や妊婦、幼児、心臓や呼吸器系の持病を持つ人は、必ずインフルのワクチンを打つべきです。それもできるだけ早く」