棋士編入試験の第1局を制した西山朋佳女流三冠=2024年9月10日、東京都渋谷区の将棋会館
この記事の写真をすべて見る

 注目対局や将棋界の動向について紹介する「今週の一局 ニュースな将棋」。専門的な視点から解説します。AERA2024年9月23日号より。

【貴重写真】和服じゃない!スマホ片手にデニム姿の藤井聡太さん

*  *  *

 9月10日。東京・将棋会館でおこなわれた棋士編入試験五番勝負第1局で西山朋佳女流三冠(29)は高橋佑二郎四段(25)と対戦。132手で勝利を収めた。

「本当にずっと気が抜けない、難しい将棋だったかなと思います。少しずつ苦しさは意識しながらも、幸運な面も大きかったかなと思います」

 西山は大熱戦をそう振り返った。力強い棋風から「豪腕」と呼ばれる西山。本局では終盤、目の覚めるようなハードパンチを繰り出す一方で、全局にわたって冷静かつ正確な指し回しが光った。

「終盤の切れ味もそうですけども、中盤の押し引きにも強さを感じました」

 敗れた高橋は、そう潔く西山を称えていた。

 五番勝負は3勝で合格。第1局に勝った西山は、あと2勝で女性として初めて、棋士の資格を得る。

 現代の将棋界はプレイヤーの属性に関係なく、勝ち進んで結果を出せば、実力にふさわしい地位を得られる道は開かれている。プロ制度としては「棋士」と「女流棋士」の2種類が存在する。養成機関「奨励会」を勝ち抜くか、あるいは今回のような編入試験に合格できれば、男女のどちらであっても棋士になれる。しかし女性が将棋を指してきた歴史は比較的短く、競技人口が少ないことなどもあって、女性の棋士はまだ誕生していなかった。

 西山は女流棋士として、福間香奈女流五冠(32、旧姓・里見)と並び立つ存在だ。両者はともに棋士と遜色のない実力の持ち主と認められながらも、惜しくもあと一歩というところで、棋士の資格は得られていなかった。

 日本将棋連盟が創立100周年、女流棋士制度が50周年を迎えた今年。女性のトップランナーである西山が、また新たな歴史を切り開く可能性は高まっている。(ライター・松本博文)

AERA 2024年9月23日号

著者プロフィールを見る
松本博文

松本博文

フリーの将棋ライター。東京大学将棋部OB。主な著書に『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

松本博文の記事一覧はこちら