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 都心部でマンション価格が高騰するなか、地方では「中心部」のマンションに移り住む動きが顕著だ。高すぎる住宅に翻弄される現代人を追う連載の7回目は、地方都市に暮らす「住み替えシニア」の選択について。

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地方都市の中心部マンションに住み替え

 Eさん(69)は高知市の中心地にあるマンションに妻と2人で暮らしている。3年前、購入した新築マンションで、2LDK、65平米の3階だ。

 それまでの三十数年はそこから車で30分程度の、郊外の庭付き戸建てに住んでいた。子ども2人を育てあげた、家族4人で暮らした思い出の詰まった一軒家。終の住み家と思っていたが、子どもが巣立ち、夫婦2人の生活になって20年弱、「住み替えもありかもしれない」と思うようになった。

 きっかけは、妻の膝が痛むようになったこと。1階がリビングと和室や水回り、2階が夫婦の寝室と元子ども部屋2室というつくりで、階段の上り下りが膝にこたえた。夫婦2人では持て余す空間も多く、子ども部屋だった2室と和室はほとんど使っていない。それでも綺麗好きの妻は、家中の床を雑巾で拭き上げる習慣があり、「しんどいなあ」「階段がないと楽やろうねえ」と言いながら、毎朝掃除をしていた。

買い物も病院も徒歩で行ける

 そんなある日、近所に住む同世代の夫婦が家を引き払って別の場所に移り住むと聞いた。いま住む戸建ては何度目かのリフォームが必要な時期になり、思い切って住み替えを決めたという。転居先は中心部に立つ新築マンションだ。

「年をとったら、一軒家の掃除や庭の手入れが面倒になる」「中心部のマンションなら車がなくても、買い物も病院も徒歩で行ける」「これからの生活を考えたら、便利なマンションに暮らすのもいいかなと思って」

 同世代の“将来を見据えての決断”に、Eさん夫妻も俄然、前のめりになった。

 当時の家は車がないと確かに不便だった。バスは1時間に1〜2本程度で、車に比べて時間もかかる。運転できる今はいいが、免許を返納したら暮らしはたちまち不便になる。大学から県外に出た子ども2人は都会で就職して家庭を持ち、「おそらくこの先、地元に帰ることはないだろう」(Eさん)。夫婦2人で年を重ねていくことを考えたら、マンションでの暮らしのほうが快適に過ごせるように思えた。

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松岡かすみ

松岡かすみ

松岡かすみ(まつおか・かすみ) 1986年、高知県生まれ。同志社大学文学部卒業。PR会社、宣伝会議を経て、2015年より「週刊朝日」編集部記者。2021年からフリーランス記者として、雑誌や書籍、ウェブメディアなどの分野で活動。

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