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 先日NHKで、スタートアップ業界において、女性起業家の半分がセクハラ被害を受けていたことが報道され話題になりました。X上には、セクハラ撲滅のためのまともな意見だけでなく、女性側が悪い、それぐらい受け入れろなどの、どこの地獄だと思わせるようなつぶやきもあふれました。今回は、セクハラを放置する企業に何が起こりうるかを検証した研究論文の紹介や、この報道から感じたことを記していきます。

セクハラで、セクハラを受けていない女性社員も消える

   セクハラが起きた企業には何が起こるのでしょうか?  The Economistにおいて、Tackling sexual harassment could bring sizeable economic dividendsという記事で、興味深い研究が紹介されていました。

 フィンランドの研究では、セクハラが横行している企業においては、セクハラ被害者以外の女性も、企業を去る傾向があることが報告されています。更には、ボッコーニ大学(イタリア)のキャロライン・コリー博士たちの研究では、2017年以降、セクハラ行為が女性の離職に大きく影響していることを報告しています。

 では、セクハラを受けた傷は、その後のキャリアに影響するのでしょうか? ストックホルム大学(スウェーデン)のヨハンナ・リックネ博士たちは、セクハラについてアンケートを行いました。ここでは、セクハラを受けたと報告した女性は、調査を受けてから3年以内に転職する可能性が女性の平均離職率より25%高く、男性被害者の場合は15%の増加でした。NHKの報道でも、セクハラが原因で起業そのものを諦めた人がいることが伝えられていましたが、実証研究でもそうした傾向が確認されているようです。

 では、どうしたら良いのか? セクハラ通報を増やすことは重要であり、失業保険の受給額を減らさないことが、安心して通報させる仕組みに寄与していることが、各種研究からも報告されています。ただ、セクハラを訴えても、その損害賠償額は今の情勢だとしれています。この金額をアップさせることも、セクハラをしない、させないことに繋がるのではないかとThe Economistは伝えています。

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崔 真淑

崔 真淑

エコノミスト。2008年に神戸大学経済学部(計量経済学専攻)を卒業。16年に一橋大学大学院にてMBA in Financeを取得。18年より同大学の博士後期課程に在籍。研究分野はコーポレートファイナンス。新卒後に、「経済のスペシャリストの世界に触れたい」と、大和証券SMBC金融証券研究所(現:大和証券)に入社。アナリストとして資本市場分析に携わる。当時最年少の女性アナリストとして、NHKなどの主要メディアで経済解説者に抜擢される。債券トレーダーを経験したのち、日本の経済リテラシー向上に貢献したいとの思いから2012年に独立。経済学を軸に、経済ニュース解説、経済・資本市場分析を得意とするエコノミスト・コンサルタントとして活動。

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