昨今、驚くべき進歩を見せている人工知能「AI(Artificial Intelligence)」。中でも、テキストで与えられた指示にしたがって画像を自動的に作成する画像生成AIは、表現の可能性を広げる画期的な技術だと言えるでしょう。しかし、常に品質の高い画像が生成されるとは限らず、場合によってはちょっぴりおかしな出来ばえになることも......。
それを逆手にとり、"架空の昭和"というコンセプトをもとに、独特の画像とそれに見合う文章をX(旧Twitter)に投稿するという試みを行っているのがプロハンバーガーさん。その作品を一冊にまとめた書籍『架空昭和史』がこのたび発売されました。
プロハンバーガーさんが作り出す昭和の世界は、まさに奇々怪々。たとえば表紙の画像にも使われている「バーガー族」は、1971年にアメリカからハンバーガーが上陸するとファッションにもそのテイストを取り入れ、バンズを模した帽子をかぶって銀座などの繁華街を闊歩したという若者たちのこと。都市部全域に下水道が普及したころには、物珍しさから下水道が観光スポットとして栄え、夏には家族連れが下水道で遊泳する「下水浴」がブームになったことも。繁華街の路地裏では協会に属さない闇力士たちがしのぎをけずり合う「街頭相撲」が繰り広げられたり、老人たちの間ではカツラの代わりに盆栽用の植木を頭皮に移植する「頭盆栽」が人気を呼んだり。子どもたちは「月刊少年トリップ」に連載されていた漫画『サイケデリック少年マガリ』や特撮ヒーロー番組の『巨漢戦隊デブイジャー』に夢中になっていたそうです。このように、食生活にファッション、スポーツ、芸能、教育など、同書では18のジャンルから"架空"の昭和を振り返ります。
面白いのは、架空であるにもかかわらず、なぜだか懐かしいような感覚になるところ。画像の色味がレトロというのもありますが、「昭和の時代なら実際にあってもおかしくない」と思ってしまう"リアルと虚構のさじ加減"がなんとも絶妙なのです。
作者のプロハンバーガーさんは、もともとナードコア(テクノなどの電子音楽にアニメやゲームなどの要素をサンプリングして落とし込んだ音楽ジャンル)を主軸としたミュージシャンとのこと。もともとサンプリングとコラージュが専門だと考えれば、画像生成AIとの融和性が高いのも自然なことなのかもしれません。
今後はこの架空昭和史の中から「キャラクターが生まれたりして、架空昭和史ユニバースになっていったらおもしろいと思うんですけどね」(同書より)とのこと。この世界線で作られる映画やアニメがあったらぜひとも見てみたい......! 興味を持った方は、まずはプロハンバーガーさんのXやTikTokなどでその一端をご覧になってみることをおすすめします。
[文・鷺ノ宮やよい]