【アヲハタ 研究開発本部 商品開発センター】ジャム・スプレッドチーム ヴェルデユニット:喜多村 優さん(きたむら・ゆう)/1993年生まれ。広島県出身。広島大学生物生産学部生物生産学科卒業。2015年アヲハタ入社、竹原工場配属。スプレッド工場移管に携わり、17年から東京で開発担当。20年広島へ転勤、現職。(写真:篠塚ようこ)
この記事の写真をすべて見る

 全国各地のそれぞれの職場にいる、優れた技能やノウハウを持つ人が登場する連載「職場の神様」。様々な分野で活躍する人たちの神業と仕事の極意を紹介する。AERA2024年9月9日号にはアヲハタ 研究開発本部 商品開発センター ジャム・スプレッドチーム ヴェルデユニット 喜多村優さんが登場した。

【写真特集】大物がズラリ!AERA表紙フォトギャラリーはこちら

*  *  *

 ジャムで知られるアヲハタでは、2017年からパンに塗って焼くだけのトーストスプレッドを製造販売している。23年の販売実績は190%増(17年比)と好調だ。

 全てのスプレッド商品の開発をメインで担当している。入社当時は広島の竹原工場に勤務。調理食品、介護食の製造現場に携わった。16年にスプレッドの製造が竹原工場に移管した際に、立ち上げに参加。別工場で作っていたものと同じものを生産するだけと高を括っていたが、うまくいかず、生産ラインの大切さを学んだ。

 1年後に開発へ異動。大学時代にチョコレートなど油脂食品の研究をしていたので、自分に合っている仕事だと思った。それまでフルーツを中心とした商品が中心だったため、社内に油脂の知識を持つ人がおらず、相談できる人がいなかった。自分に課せられたのは味だけでなく、スプレッド製造技術の確立、生産ラインの管理と、責任の重さを感じたが、ミスを恐れていたら前に進めないと、挑戦を続けた。

 スプレッドを作る上で一番難しいのは、油脂、糖類、粉類の調合だ。アヲハタでは消費者の使い勝手の良さを考え、チューブ式容器を使用している。調合がうまくいかないと、冬場は固まって出にくく、夏は油が浮いてしまうなどの問題が起こる。

 半年間で新商品の発売と、既存商品のリニューアルを行うため、年間で20前後の味を手がける多忙さだ。22年に発売した、メロンパン風トーストスプレッドは、一から開発した。コンセプトは、パン屋さんの本格メロンパンを自宅でも食べられるというもの。スプレッドのニーズは上がってきたものの、売れ筋に加えて新たに定着する味がなかった。家庭に馴染みがある味ならばどうかと、1年半かけて研究、販売にこぎつけた。

 こだわりは、パンに塗って焼いただけで、ふわりと漂うバターの香りと、ザクザクとしたメロンパンの食感。客からは手軽で美味しいと、評価は高く人気商品に。さらに食感を高めたいと、今年の秋にリニューアル商品を発売する予定だ。

 トレンドに敏感になるため、コンビニでは新商品、外食では食べたことがない料理を必ず注文する。失敗を恐れず、直感を信じ、突き進む日々を送る。(ライター・米澤伸子)

AERA 2024年9月9日号