全国各地のそれぞれの職場にいる、優れた技能やノウハウを持つ人が登場する連載「職場の神様」。様々な分野で活躍する人たちの神業と仕事の極意を紹介する。AERA2024年9月2日号にはケンミン食品 マーケティング部 開発課課長 新田優貴さんが登場した。
【写真特集】大物がズラリ!AERA表紙フォトギャラリーはこちら
* * *
1950年、神戸の地で創業したケンミン食品は米粉で作られるビーフンを代表とする米の加工食品メーカーだ。国内米麺市場の約50%のシェアを誇る。
入社以来、要となる味の開発を主に担当してきた。本社からのリクエストを受け、油やエキス、無限大にある調味料を選定してパターンを作り込んでいく。数十食ができた段階で本社と試食し、駄目なら一から考え直す。
ようやく完成しても、工場でのラインテストをクリアしなければ商品化はできない。
30代前半に中華まんの開発を担当した。海外の工場で製造するため、材料は現地のものを使う。開発の際は材料を取り寄せて調整した。苦労して作り上げた味を現地の工場スタッフに指導しに行った際、問題が起きた。
調味料が同じでも、日本と水が違うため、味が全く変わってしまったのだ。さらに、生地も膨らまなかった。何千個もの饅頭を作っては問題解決の糸口を探す作業を繰り返し、完成までこぎつけた。
入社当時の工場勤務の経験があればこそ、開発した味を工場で円滑に生産できるようにする重要性を知っている。
「不可能を可能にできる説明を事前にしっかりと準備し、寄り添ったコミュニケーションを重ねることが重要です」
08年に発売したライスパスタの購入動機を調べたところ、小麦アレルギーを持つ人が多かった。これをきっかけに、ケンミン食品ではグルテンフリー商品を柱にする。
「甥っ子がアレルギーで家族と同じものが食べられないことを悲しんでいたんです。食卓で、同じ料理を食べられるようにしたいと、夢ができました」。主力商品のビーフンのグルテンフリー商品を開発後、多くの家庭から感謝の言葉が届いた。
世界中でグルテンフリー市場がここ10年で4倍に拡大。米100%のビーフンへの注目は高まっている。21年にグルテンフリーのラーメン開発に着手。当時は工場に設備もなく、スープをどう作るかも知らなかった。ラーメン屋に頼み込み、修業するところから始めた。一つ一つ突き詰め、22年に冷凍の醤油ラーメンの販売を開始。大阪・関西万博にも出店する予定だ。日本が誇るラーメンを世界中の小麦アレルギーがある人に食べてもらいたいと、夢は広がっている。(ライター・米澤伸子)
※AERA 2024年9月2日号