元朝日新聞記者 稲垣えみ子
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 元朝日新聞記者でアフロヘアーがトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。

【写真】稲垣さんが人生初のタトゥーシールに挑戦

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 7月は記録的猛暑だったそうで、だがまあそんなこと言われずとも「知ってるよ!」と突っ込まずにはいられないわかりやすい暑さ。故に、我が家にエアコンがないことを知る全員から「死んじゃわないんですかっ」とあまりにしょっちゅう聞かれるので、一応死んでないヨというご報告と共に、一体どのように私がこの夏をやり過ごしているかを、ある意味人類の貴重な記憶として書き留めておく。

 結論から申し上げると、自分でも驚いたことに機嫌よく過ごしているのだ。急に桁違いの猛暑が来た昨年の方が、気持ちも体も断然キツかった。今年は最初から昨年以上の暑さを覚悟していたのが奏功したのだろう。経験から捻り出した「夕方熱い銭湯で盛大に汗をかく」「暑い夜はとりあえず床で寝る」という二大対策が明らかに効いていて、昨年は寝つけない夜が何日もあったのが、今年は連日スッと寝落ち。ま、それだけ連日の暑さに疲労しているのかもしれないが、いずれにせよ寝られると思うだけで気分的にめちゃくちゃありがたい。

人生初のタトゥーシールにも挑戦。暑いとアクセサリーつけるのも暑いからね(写真:本人提供)

 それに加えて、今年はスペシャルな対策もいくつか取っている。まず朝はいつも5時に起きるところを1時間後ろ倒しして、ちょこっと朝寝坊。というのは明け方が一番涼しいのでスウスウ寝れるのだ。さらに、あまりに暑い日は自炊を諦め近所の蕎麦屋巡りを楽しんだ(←蕎麦好き)。さらに避暑を兼ねて近所の名画座に行ったり、これも近所のカフェで知り合った友達のライブに行ったり、知り合いの店にビールを飲みに行ったりとイベントを増やしたので、久々に子供時代の「夏休み」っぽい夏となって、むしろ例年より楽しい。

 あと、暑いとみんなが優しくなる。冷えたスイカを土産に持たせてくれたり、馴染みの喫茶店では「どうせ家は暑いんでしょ」と長居を勧められたり、いつもの銭湯で常連のおばあちゃんと「暑さにめげずに頑張んなきゃね」と励まし合うのも豊かな時間であった。そうこうするうちにもう立秋。去り行く夏を少し寂しく思う自分を褒めたい。

AERA 2024年8月26日号

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稲垣えみ子

稲垣えみ子

稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

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