太平洋戦争末期に上皇さまが疎開生活を送った旧日光田母沢御用邸の思い出を懐かしみながら、仲睦まじく手をつなぐおふたり=2024年5月28日、栃木県日光市、JMPA

ひとつの傘をおふたりで手にして

 旧御用邸の庭には、3.5メートルの高さに成長したイチイの木がある。

 1996年、当時天皇だった上皇さまは、美智子さまと紀宮さま(当時)の3人でこの旧御用邸を訪ねている。

 疎開中に勉強していた2階の部屋などを見て、「ここに机を置いて勉強し、こちらが寝室」「この中庭でマスやヒメマスを飼っていたのよ」と、懐かしそうにおふたりに説明。

 このとき、2階の部屋からイチイの木が見えたと、上皇さまが思い出を話されたことをきっかけに、2001年に同じ場所におふたりでイチイの木を植樹したのだという。

 イチイを植えてから20年以上の歳月が過ぎた。職員から説明を受けた美智子さまは「ああ、そうでした」とほほ笑み、上皇さまも「ずいぶん伸びているね」と驚いた様子だった。
 

東武日光駅に到着し、集まった人びとに手をふる上皇さま。おふたりが仲睦まじく手をつなぐあたたかな光景は、昔から変わらない=2024年5月28日、栃木県日光市、JMPA

 散策中に小雨が降ってくると、おふたりでひとつの傘に入り、互いをいたわりあうようにしながら歩を進めた。穏やかな笑みを浮かべながら、何度も優しい顔を見合わせて、紫色の花が美しいナスヒオウギアヤメなどの花々を愛でていた。

 上皇さまの疎開時代の思い出をたどる4日間の私的な時間を、おふたりは穏やかに楽しまれたに違いない。

(AERA dot.編集部・永井貴子)