一時納骨堂で手を合わせる北見さん

用意した墓があっても無縁墓へ

 引き取り手がいなければ、故人も不利益を被る可能性がある。お墓を用意していたとしても、引き取る遺族がいなければお墓に入れる保証はないのだ。

 冒頭の女性の叔母は、墓はすでに購入してあったので、他界した夫は先に納骨できたが、叔母の遺骨の行先は不明だ。お墓の所在地は親族の誰にも知らされていない。火葬後は自治体が管理する納骨堂に入ったが、数年経って引き取り手が現れなければ、その後は、自治体のルールにしたがって無縁墓に移されることになる。本人にとっても不幸な結末といえるだろう。

「故人の残したお金が使えない場合は、自治体の公費、つまり税金で捻出します。おひとりさまの高齢者が増えていくことを考えると、自治体の予算でまかなうには限界があります。自治体の財政が逼迫しているなか、墓地埋葬法などに基づく最後の手段に行く前に“防波堤”となるような仕組みを作る必要があります」(鈴木教授)

注目される横須賀市の取り組み

 その“防波堤”となるモデルとして全国の地方自治体から注目を集めているのが、神奈川県横須賀市が全国に先駆けて行う終活支援だ。

 横須賀市は、東京や横浜のベッドタウンとして発展してきたが、少子高齢化・各家族・単身世帯化の波が押し寄せている。23年10月時点で約38万5千人が暮らし、高齢化率は32.47%。このうち一人暮らしの高齢者は約1万人にもなる。引き取り手のない遺骨がこの30年間で10倍近くに増えた。

「原因の一つに携帯電話の普及が考えられます。一人暮らしの女性が街中で倒れて救急車で搬送されたとします。病院に運ばれて、スマホにロックがかかって使うことができなければ、女性が病院にいることを第三者が家族や友人に伝える手段がないのです。引き取り手のない遺骨が増えているのは、引き取りを親族が拒否する以前に、家族の連絡先がわからないことが大きな要因の一つになっているのです」

 そう語るのは、終活支援の陣頭指揮を執ってきた、同市地域福祉課終活支援センターの特別福祉専門官・北見万幸(かずゆき)さんだ。

 今の時期なら、熱中症にかかって倒れるリスクは高齢者に限らず誰にでもある。出先や搬送先で緊急連絡先や身元保証人の連絡先がわからないまま、息を引き取ったとしたら、無縁仏になることもあるかもしれない。

 後編「『身寄りのない高齢者』を無縁仏にしない 横須賀市が始めた尊厳守る『取り組み』とは」では、どのような仕組みが必要なのか、横須賀市の取り組みを参考に考えていく。

(ライター 村田くみ)